劇場公開日 2020年10月23日

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「☆☆☆☆(全体の2/3) ☆☆☆★★(ラスト30分の駆け足ぶりか実...」朝が来る 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5☆☆☆☆(全体の2/3) ☆☆☆★★(ラスト30分の駆け足ぶりか実...

2024年3月9日
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☆☆☆☆(全体の2/3)

☆☆☆★★(ラスト30分の駆け足ぶりか実に勿体ない)

〜この監督さんの本質は、物語を構築するストーリー性の有る劇映画よりも、自分の感じるままに突き進む、この作品の様なドキュメンタリーにこそ向いているのではないかと思っている。〜

『玄牝』の自分のレビューより

本編にはドキュメンタリーを模した場面があり。やはりと言うか、寧ろ個人的には「これこそが、河瀬直美の真骨頂!」と言える場面でもあり。その辺りに注目して貰うと、更に興味深く観れると思っています。
※ 1(勝手に、監督本人の性格はかなりの意地悪なのでは?とも、『玄牝』を観た頃から感じていた。その辺りは、ひかりの家族を描く描写でも最大限に発揮されている…とも言えるか💦)

原作読了済み。

約150ページに渡って繰り広げられる〝 子供が出来ない夫婦の物語 〟
しかし、以後200ページは〝 子供を育てられなかった 〟幼い母親の、悲しい物語が延々と続く。
それまでの、長い長い重く苦しい話が、ラスト数ページで浄化され、思わず泣かされてしまった。

映像化にあたって、原作からの変更点が幾つか有り。主なところとして…

・不妊治療…岡山→札幌

・片倉家…栃木県→奈良県

・ベビーバトンの閉鎖…浅見が母親の介護の為→自身の重い病の為

・栗原夫婦の住居…武蔵小杉→(都内?)湾岸地域

・ひかりの転職先…広島で郵便配達から、元横浜で風俗に勤めていたコノミを探して、横浜のラブホテル清掃員

横浜で新聞配達

細かいところは抜きにすると。この辺りの変更点には、それほどの違和感は無い。
特に、不妊治療を岡山から札幌へとした変更は。夫婦2人の気持ち、高額な医療費。更に、飛行機の天候で決断する辺りは、永井・井浦の演技&演出の力で説得力を伴っていた。
(原作でも、岡山には新幹線では無く飛行機で移動していたが、、、)

またこの夫婦の住居を、多摩川のほとり武蔵小杉から。海が見える地域にした理由が、《広島のお母さんの居る海と繋がっている》とした、感謝の想いの強さが現れているし。

〝 子宝に恵まれなかった 〟

その過去を浅見に持たせ。やむなく閉鎖せざるを得なくなってしまった事の想いが。浅見の人間性の豊かさを表現させており。それらを過剰に説明せず、顔の皺だけで表現する演技で、観客を一気に納得させてしまう浅田美代子の素晴らしさ。それを引き出す演出力は、活字では味わえない部分でもありました。

映画本編は、ファーストシーンからかなりゆったりと。深く静かに浸透するが如く進んで行く。

《愛に恵まれた心を潤す光の洪水》

《愛に見放されてしまった心の隙間を埋めて欲しいささやかな光》

自然との調和は、河瀬作品には欠かせないキーワードの一つでも有るだけに。映画本編の中で《らしさ全開》で、数多くの自然描写が多く。中でも、タイトルの由来となる〝 ひかり 〟の描写には。原作には描写されない、これら多くの《幸福》を求める人間の 〝 ひかり 〟への想いを、様々に表現されていた。

観客の心に、染み込んで行く様な、このリズム感。
嵌まり込んで行けば行くほど、この河瀬直美ワールドの虜になるのは間違いない。

…但し、、、

いわゆる、エンタメ性の作品とは一線を引く作品だけに。言わば説明過多とも言えるエンタメ作品を観なれた人には。どうしても、もどかしいくらいな座りの悪い椅子に、長い時間座り続けているかの様な、感覚を覚えてしまうかも知れず。観る人を選ぶ作品とも言える。

ファーストシーン近く、初めて電話の呼び出し音が画面に被るが、家族は部屋を出ている。
しかし、カメラはゆっくりと廊下を前進する。
おそらく、妻の心の不安感を表現したい…との思いからだろう?とは思うものの。少し意地悪く言ってしまうと、「B級ホラーか!」…と思ってしまった。

以後、映画は暫く手持ちカメラで。画面がブレる映像が続くのが気になった。

原作の有る映画作品としては、原作を補正しつつ。かなりの成功を収めている…と、言えるとは思うのですが。ただ1つだけ残念だったのが、最後の最後。ひかりが広島に戻るところから、ラストまでの駆け足が、余りにも早すぎてしまい。そこまでの、リズム感の良さが、一気に損なわれてしまっている気がします。

それと、これは原作・映画共に言えるのですが。ラスト数ページでの、秀逸な描写を活かす為にも、刑事が訪問する場面は要らなかったのでは?…と、思ってはいるのですが、、、

ひかりは(確か)何処に居るのか分からない我が子に向けて手紙を書いていたのでは?

こちらの勝手にラストへの流れを…

「ごめんなさい!」と言って出て行く



これまで書き続けた手紙を、郵便受けに入れる
(又は、原作にもある「筆跡を調べて欲しい」)



読む
(重要な一文に気付く)



…で、ラストへの流れは完璧になる…とは思ってはいるのですが💧

浅田美代子の演技が素晴らしかったのは、既に書き込みましたが。
(そもそも、彼女の演技が素晴らしいのは。『赤い鯨と白い蛇』の頃から際立ってはいましたが)
それ以外でも、永井・井浦の夫婦コンビや、
(原作だと夫が目立たないだけに)
子役の男の子。その他の出演者の演技には説得力が有り。やはり蒔田彩珠ちゃんの熱演有ってこそ…は、記しておかねばなりません。

※ 2 そしてもう1人、山下リオ。

山下リオは、近年カメレオン女優化して来ていて。今後共、目が離せない女優さんの存在になりつつある。

最後に、どうでも良い場面なのですが、個人的にツボった場面が有りました。

実家に帰ったひかりが、姉の部屋に入り「子供っぽい!」…っと、一言呟く。
その時に、数曲のクラシック曲を中心としたピアノ曲の調べが、メドレーで聴こえて来るのですが。
その中で、ほんの一瞬だけ♬ 虹を追いかけて ♬のメロディーに変化するのです。

2020年1月31日 TOHOシネマズ市川コルトンシネマ/スクリーン2

※ 1 その後、東京オリンピックでのやらせ映像で有ったり、過去のパワハラ疑惑で有ったり…と。
色々な問題が明るみに出るに従って、以前に黒澤明が語った言葉…

「作品にはその監督の資質が出るんだよ!」

…の言葉が思い出される。

と同時に、何となくこの監督の作品を観るに連れて感じていた、多少の違和感が思い出されたものでした。

※ 2 予想通りに、その後の彼女はデビュー直後の可愛子ちゃんキャラから完全に脱皮。
今では、日本映画界に於ける貴重な脇役女優としての地位を着々と築いている。

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松井の天井直撃ホームラン