「最後のセリフは疑問」朝が来る 12月3日さんの映画レビュー(感想・評価)
最後のセリフは疑問
ストーリー本編というより、登場人物の過去について時間も長く、丁寧に描かれていたのが良いと思った。特別養子縁組を知らない人は勉強になり、特別養子縁組の当事者(子ども側も親側も)は、共感できる場面がたくさんある。
この作品で新しいと思った視点は、生みの親が生んだ後もしっかり描いているということである。育ての親は子どもが来てしまえば生みの親とは連絡が取れなくなるから、生みの親の人生に関して関知できない。生みの親側も、子どもの命を助けてもらう特別養子縁組という制度があっても、自分の人生までもは助けてもらえない。特別養子縁組に関わる人は、生みの親のその後の人生についてもケアをしなければならない。示唆的ではあるが、監督と作者は、今の特別養子縁組制度が不十分であると批判しているように思えた。
自らが特別養子であるという立場からこの作品を批評すると、最後の「会いたかった」という朝斗くんのセリフは、養子の感情を表現していないと思う。その言葉だけでは、養子という立場の子どもの葛藤を表していないからである。「会いたかった」と言うまでには、様々な生みの親に対する負の感情を克服しなければならない。また、会わなかったことの尊さに気づけていない。この作品では、朝斗くんに対する真実告知教育はうまく行われており、彼は生みの親を親であると認めている。しかし、社会を経験していないせいで、生みの親に関する感情がまだ荒削りである。また、生みの親が子どもを取り返しに来ないという、当たり前の幸福に子どもはなかなか気づけていない。従って、お節介だとは思うが、最後のセリフは、子どもを成人にした上で、ビシッとスーツでも着させて言わせると効果的なのではないかと思う。
また、良い映画を見るといつも思うのだが、良い映画はその役者の人格にまで目が行く。今回生みの親の役をやった蒔田さんは本当にうまかったと思う。