劇場公開日 2020年10月23日

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「切実なテーマをリアルに描いているが」朝が来る 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5切実なテーマをリアルに描いているが

2020年11月7日
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鑑賞方法:映画館

子供が欲しくても授かることのできない夫婦と、子供を産んでも育てることのできない母親。特別養子縁組による子供、養親、実親の関わりという切実で重いテーマを、リアルに、かつ謎解きの要素を入れて描いている。
木々や島の風と光、ドキュメンタリーと見紛う登場人物の表情やセリフ、揺れるカメラなど、河瀬監督の持ち味が十分に発揮されている。
前半の夫婦のパートでは、妊活に悩む姿、特別養子縁組という制度を知って感銘を受ける姿が、自分事として感じられ、「親のためではなく、生まれてくる子供のための制度」とNPO主宰役の浅田美代子が語る姿に、本当に感動してしまった。
しかし、この作品(たぶん原作も)の真価は、子供を産んでも育てることのできなかった母親の事情と心情を描いている後半のパートにある。そこでの母親役の蒔田彩珠の凄みには目を見張る。よくこれだけの難役を演じきったものだ。
ただし、数年振りに会う母親と名乗る人物が変貌し、金を要求してくるシーンは、謎解きの起点となるシーンであり、事情が明らかになった後にはクライマックスとなるはずのシーンだが、他のシーンの描写の濃密さと比べると、ずいぶん薄味で、しかもセリフに頼っていたように感じ、物足りなさが残った。
後半になるにつれて、謎解きを追いかけるのに性急な感じで、残念ながら、河瀬監督はミステリーを描くのは得手ではないようだ。
ラストの母親どうしの再会、そして子供の視点が、監督が描きたかった本当のテーマなのだろうが、自分としてはうまく読み取ることができなかった。

山の手ロック