「ラストカットで十分伝わる! あざといエンドロールで一気に浅ましく見える作品」朝が来る わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストカットで十分伝わる! あざといエンドロールで一気に浅ましく見える作品
特別養子縁組について、自分自身あまり知識があるほうではなかったので、予告編で一気に興味を持って鑑賞。「望み」「星の子」など、家族の在り方を問う邦画がどんどん出てきている中で、高い期待値を持ってみました。
この監督の作品は恥ずかしながら見たことがなかったんですが、セリフに頼らない演出が本当に素敵だなと思いました。オープニング、すっごく不穏な感じがする波音とおそらく出産中の母親の声と思われる音を重ねていく演出。本来この世に生を受けるというのは明るい未来に希望を見出しがちですが、最近はやりの「望まれていない妊娠」により、生まれた時から行き場が狭い子供もいるんだということを暗に提示しているようで素晴らしいと思いました。
前半は、特別養子縁組を受けることになった夫婦の妊活について丁寧に描かれていました。やっぱり夫婦って子どもが欲しいものなんだなと改めて思ったり。 面白いと思ったのは、この夫婦が特別養子縁組について知ることになったのが、初めてデートした宇都宮の旅館でたまたま見たテレビという設定です。初めて出会った時から、子供を作ることが難しいという運命を実は背負っていたという地で、新たな視点を提示するというのが良いなと思いました。物語の後半にも特別養子縁組に出すいわゆる「望んでいない妊娠」をする母親の想いは、基本的にこの作品ではドキュメンタリー番組のインタビュー形式で描かれていて、フィクションとノンフィクションの狭間を上手くついてくる粋な演出だと思いました。
後半は、特別養子縁組に出す側の視点で、どうして「子供を返してほしい」という思いに至ったのかが描かれていきます。このパートは本当に「蒔田 彩珠劇場」という感じで、非常に繊細な演技をされていました。剛力彩芽にも似ている、福田麻由子にも似ている、どこか素朴なようにも見えてどこか異物感のある佇まいが、素晴らしかったですね。中学生で妊娠したということで、家族親戚からも腫れもの扱いされて涙するシーンは名演だと思いました。この妊娠を、私が産んだという事実をなかったことにはして欲しくない。実際問題育てられる能力もお金もない中で、タワーマンションで子供が順調に誠実に育っていく写真を見せられると、絶望的な気持ちになるよな…これを「絶望的です」と言わずに、演技と音楽と光と影の演出の仕方で示すこの映画の構造は本当に自分好みです。
ラストカット、ちょっと偶然が過ぎるなと思ったのですが、再会します。ここで言う「ごめんなさい」の重み。結果的にお互い謝り合ってるんですが、「ごめんなさい」の意味が全然違うんですよね。
書きながら思ったのですが、永作博美演じる継母は、息子が友達をジャングルジムから突き落としたという幼稚園での報告を信じてしまうのですが、最終的に友達が自分から飛び降りていたということが発覚します。このシーンで継母が感じた思いをフィードバックさせながらラストカットを見ると、非常に感動的です。そこで子役のニコッとするラストカット。完璧。余韻を楽しませてくれー・・・
と思ってエンドロールなんですが、非常に残念でした。これでこの作品の評価がガタ落ちしてしまいました。 そもそもこの主題歌自体が非常に浅薄な歌詞だなと思ってたのですが、この曲は実母と継母どちらの世界にも生きていて、頻繁に劇中でも歌われていて、まぁ多少意味があるかなと思ったのですが… 曲の最後、子役にサビを歌わせるんですよね。もっと上手に歌えるはずなのに、絶妙に音程を外させて。これはあざとい。そして最後に一言「会いたかった。」これは蛇足だろ…言わなくても表情でちゃんと伝わってるのに… これがないと良くないと思ってしまうぐらい見る側の読解力を信頼してないのかよと思いました。でもほかの人のレビューを見ると、「会いたかった。」で号泣したというものも多く、はっきり言わないとダメなんだ…と少し残念になりました。
あと、一つ気になってたのが家にあるハッピーバースデーの飾り付けがなんであんなに不穏な感じで曲がってたのかなということ。あれがおしゃれなのか、それとも単に上手くいかないことのメタファーだったのかわからないまま終わってしまいました。
ということで、全体的に好きな作品だったのですが、エンドロールの最後が完全に蛇足だなと思いましたし、演出が浅ましいと思いました。