「佐都子はひかりも受け留めた 救われるべきはひかりだったのだと思う 現実には極めて困難なことであるが 特別養子縁組制度は果たして完璧な制度なのか?」朝が来る カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
佐都子はひかりも受け留めた 救われるべきはひかりだったのだと思う 現実には極めて困難なことであるが 特別養子縁組制度は果たして完璧な制度なのか?
不妊症治療を諦めた夫婦と堕胎できない週数まで妊娠に気が付かなかった?中学生をつないだ特別養子縁組制度を描いた139分。
普通の養子縁組とは違って、子供限定で、生みの親とは戸籍の親子関係が永久になくなる制度。1986年から施行。2020年4月に改正され、6歳未満限定だったのが、15歳まで拡大された。児童虐待問題の解決策として期待されているのであろう。
この制度は公の機関(児童養護施設や児童相談所)だけではマンパワーの点で実施困難なため、民間斡旋団体や医療機関に委託され、それらが担うようになってきて、育てられない事情がある実母と不妊症治療を諦めた夫婦の間で、この話のように生まれる前から養親と子供のマッチングがなされることが多い。運営費や実母の生活費としてかなりの金銭的負担を養親側に求めることも普通。しかし、親同士を直接会わせたり、実母が養父母の個人情報を得ることはないと思う。浅見(浅田美代子)はそうした縛りなく、親同士を直接会わせたり、名前も養親側が好きに付けられるとか、小学校入学までに産みの親がいることを告知しないといけないと言う。
「なかったことにしないで」
実母との親子関係は戸籍上はなくなる。しかし、戸籍の記述が抹消されてしまうとは考えにくいのだが、実母が子供の養父母を探せないように転出記録も抹消されるのだろうか?それならば「なかったことにしないで」は納得できる。
もうひとつのひかりが言いたい「なかったことにしないで」は自分が人を好きになって、妊娠したことを「なかったことにしないで」だ。
ひかりの家庭は充分経済的にも恵まれているし、ひかりの両親も健在だ。決して子供を育てられないわけではないと思う。本人の就学の機会を奪うという理由が最優先される裁定だが、ひかりは家族から疎外され、親戚の家での場面にあるように親の世間体が最も優先され、結局、不登校となり家出することになってしまう。なんだか、赤ちゃんより、本当に救われるべきはひかり自身なのではないのか。
そういうことであれば、最後の場面はひかりを救ったのは佐都子であり、佐都子によりひかりは人生をやり直す機会をもらった。
実家の人間にはできなかったことだ。
【朝が来た】
朝斗とひかりに一緒に朝の光が来る制度でなければならない。
昨年の映画【夕陽のあと】も鹿児島の島の漁村が舞台だった。この映画でも浅見の妊娠中の少女の面倒を見るのは瀬戸内海の島だった。夕陽のあとをリスペクトした設定であって欲しいと思った。だか、民間斡旋団体の介入はさまざまな問題がある。本来は公の機関が責任を持ってあたるべきだと思う。仲介業や斡旋業界のメリットが優先されると、利用者はそれに振り回されることになるからだ。
「夕陽のあと」も朝が来た」も、現実にはあり得ないこと。だが、親同士が直接会って、互いの心情がぶつけられる。それにより観たものは心を揺さぶられる。朝が来たはひかりが未成年で、ひかりの親の都合で進められることにも注意する必要があると思う。
キネカ大森や新文芸座、チュプキ田端などでのでの二本立て再上映が組まれることを期待したい。