「人間讃歌」ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
人間讃歌
オリヴィア・ワイルドの初監督作であり、バラク・オバマが選ぶ「2019年の映画」の1本と相成った「Booksmart」...タイトルだけ知っていたので、英語力のない私はずっと本屋の話だと思っていた。いや本屋なら bookstore だろう。公開決定時の副題と予告編で気づいた...。
じゃあ "book smart" ってどういう意味よ、といえば
" Having knowledge obtained by reading and studying ("book-learning"), rather than by practical experience." (from Wiktionary)。
ひらたく言えば本ばっかり読んでる頭でっかちタイプのことだそうだ。対義語は "street smart"、わかりやすい。
主人公のモリーとエイミーは所謂 "book smart"なふたり。チャラチャラした同級生を見下してアイデンティティを維持していたモリーだが、皆遊んでるようでレベルの高い進路だと知ってしまう。プライドばっきんばっきんである。
プライドがぽっきんしたモリーはエイミーを巻き込んで卒業前夜のパーティに繰り出すのだが...。
冒頭の瞑想っぽい音声からミシェル・オバマとルース・ベイダー・ギンズバーグの写真。意識高い系を隠さないモリーと、意識の高さは持ちつつ、押さないタイプのエイミー。この表面的な「強さ」が後々反転するようにできている。巧み。
卒業前夜の彼女たちには本当に色々起こる。まず目的地に中々辿り着けない。しかしこの映画は悪党(大体この手の映画だとジョックが悪役だよね)が居ない。皆変だし欠けているところもあるが、それぞれが何か持っている。夢とか、趣味とか、愛とか、友情とか。そういう「本ばっかり読んでると気づけない同級生のこと」に気づき、単純だけど「世界を広げる」一夜を過ごすのだ。
なんでも分かり合えていたつもりのモリーとエイミーも、きっちり互いをぶつけ合う。嫌なところを見つめる。とにかくこの映画は人間讃歌である。
青春に正しさなんてないし、どこかで転んでもまた立ち上がって周りを見ればいい。そう思わせてくれる爽快さを感じる。
モリー&エイミーの組み合わせが最高に愛おしい。どちらかだけでは鼻持ちならず、もしくは頼りなく見える。同じ "book smart" でもタイプの異なるふたりの冒険が素敵。ビーニー・フェルドスタイン(ジョナ・ヒルの妹だと今作で知った)のあの強引さと脆さ、ケイトリン・デヴァーの底力。一見平凡と見えるテーマを彩るキャストの個性と通底する明るさ。楽しい映画。老若男女、観た後で様々思いを馳せられると感じる。