劇場公開日 2023年3月10日

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「winny事件の法廷闘争の物語(壇弁護士視点)」Winny くりあさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0winny事件の法廷闘争の物語(壇弁護士視点)

2023年3月16日
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鑑賞方法:映画館

当時からネットの住人をしていたものの一人として、この映画は壇弁護士視点の偏ったまとめ方されていることは指摘しておきたい。
とはいうものの、金子勇氏が無謬で潔白とは言い切れないと判断できる事実は作中に描写されているので、当時を知らない鑑賞者にはそこまでちゃんと読み取ってもらえればと思う。
表面的な理解で、金子氏を悲劇の英雄視する者がいないことを願う。

さて。
この映画は、初期から金子氏の弁護にあたった壇弁護士の「法廷闘争」の物語である。
一人の技術者を信じ、支え、共に戦った、弁護士の英雄譚だ。

47の書き込みとwinnyの公開、爆発的な利用者の増加、暴露ウイルスによる情報漏洩の社会問題化、ここまでがタイトルが出るまでのものの数分であっさりと流される。
winnyを作るに至った前提の状況(WinMXの状況など)は描写すらなく、そもそも一般人の間に広まる直接の原因となった悪用を煽る雑誌に対する言及もない(枕元や、アップロードで逮捕された被告の部屋にネットランナーが置いてあった程度)。

本格的に物語が動くのは、違法アップロードで二人の逮捕者が出て、その参考人として金子氏に家宅捜索が入ったところからである。
そこから、警察の不当な捜査手法が、壇弁護士の語る開発者の無病性が、金子氏の自閉傾向を感じるまっすぐさが描かれていく。
弁護士は何を見、知り、感じ、いかに国家の横暴と戦ったか。

その視点では、大変よくまとめられた物語だった。

本作は、全体が弁護士の英雄譚としてまとめられているにも関わらず、冒頭にも書いた通り弁護側に不都合な事実も描写されている。
それを映画制作者の誠実さと見るか、単なるアリバイと見るかは見る人次第だろう。
看守に「あんたの作ったwinnyのおかげで無修正が手に入って感謝してる」という意味のことを言われたシーンは、世間での一般的な認識を示す鋭い演出だった。この部分が実話なら、その時金子氏はどう感じたろうか。考えることをやめ、星に思いを馳せたか。

繰り返すが、壇弁護士には金子氏がどう見えていたか、を知る映画としては面白かったが、当時を知らない者が事件の全体像を知る手段としてはお勧めしない。当時を知り、winnyに否定的な者による背景解説が必要である。
嘘は言っていないが、大事なことも抜け落ちている。

一方からの視点であることを忘れなければ、非常に出来がよい。星4。8001とかこんにちはマイコンとかネットランナーとかよく集めてきたな……。

事件全体について個人的な意見を言うとすれば。
WinMXでのファイル交換に足がつくようになってきたからやめるしかないかという雰囲気の場に匿名で可能とするシステムを提供するのは「自作の包丁を目的外に使われた被害者」ではなく「喧嘩している当事者に自作の包丁を手渡した加担者」であろうし、自分専用にダウンロードのみを可能とするカスタム版を用意してそれで違法アップロードされたファイルを手に入れていた事実は法に触れる使い方が標準であることを認識していた結果であるし、47としての書き込みで既存著作権保護システムの崩壊を予見しそれを容認どころか加速させる発言をしていることなどその他理由を含めて「公権力による責任追及は妥当」と考える。しかし、その追求を急ぐあまり捜査に不当性があったこと、規制できる法が追いついていなかったことから「無罪妥当」でもある。実際、最高裁判断も、行為自体は問題視しながらも特定事件の幇助とは言えないとしての無罪である。映画の印象とは異なり、正しかった、問題なかったとされたわけではない。

本当に金子氏が無謬であり主張通りに情報ソースの匿名性担保が目的なら、ファイル交換より先に掲示板機能の方を整備するべきだった。(それだと世に広まらなかったかもしれないが)
もし、そういう利用者間のコミュニケーションが機能の中心であったなら、そのような使われ方が主流であったなら。
今のTwitterの位置には、winny掲示板がいる未来があったかもしれない。

そう考えると、「タダでファイルが手に入る」として世間一般に広め、それを社会の共通認識とさせた、ネットランナーを筆頭とした雑誌類の罪は、金子氏以上に糾弾されるべきと思うのだ。

くりぽん