「「どんなものにも生きる権利がある」」東京干潟 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「どんなものにも生きる権利がある」
同時公開されている「蟹の惑星」と、同じ時期、同じ干潟で活動する、80歳半ばの老人を描いたドキュメンタリー。
事故で失った片目を隠すことなく、河川敷に小屋を建てて、たくさんの捨て猫と一緒に住んでいる老人は、「あんた環境省の人?」と、向こうから監督に話しかけてきたという。その堂々としたオープンな姿を見て、監督は「これは映画に出来る」と直感したらしい。
一方、老人は「俺なんか映して映画になるの?」と思っていたようで、自分の特異性には無自覚であった。
監督は4年間にわたって通い詰めて撮影し、何度も繰り返しインタビューして、老人の生き様を浮彫りにする。
大きいシジミだけ採るのはなぜか、なぜ素手で採るのか。どのような気持ちで捨て猫と暮らしているのか、なぜ河川敷に居着いてしまったのか。そして、これまでの人生はどのようなものであったのか、なぜ片目を失ったのか。
80代とは思えないがっちりした体躯をもつ、この心優しき老人は、チューハイを片手に、「どんなものにも生きる権利がある」と何度も語るのだ。
漁師による乱獲と、工事による環境破壊で、シジミは激減しているそうだ。
また、バブル期を彷彿とさせるオリンピック特需の東京を眺め、その先に何があるのかと、老人は苦々しい。
しかし、それでもなお、台風の後、濁流で増水した危険な多摩川のほとりで、なぜか老人は元気なのである。
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