劇場公開日 2019年8月17日

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「アートを見る目が軽くなる気がする」アートのお値段 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アートを見る目が軽くなる気がする

2019年8月24日
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アーティストやアートが総じて寡黙なのに対し、ディーラーやオーナーは饒舌だ。
現代アートの価値について聞かれる前に、質問を極力遮ろうとするかのようだ。

アーティストは総じて自分の作品の価値は底上げされてると認識しているし、当面の資金も必要だし、だが、行く行くは、美術館に所蔵されて、自分亡き後に、再び陽の目を見るような作品を残せれば本望だとさえ思っている。

だが、ディーラーは、美術館や多くの人の目に触れる場所より、選ばれた人のところで相応しい展示方法で飾られるのが、アートにとってもっとも喜ばしいと主張し、値段をドンドン吊り上げようと躍起だ。

アートの値段とは一体なんだろうか。

こんなことは、小学生の時から誰もが抱く疑問のような気もする。

ピカソの「泣く女」を見た時、ああ、これだっら自分も描けると皆んなだって思ったじゃないか。
こんな名声や値段に対するささやかな疑問は、こんなところから、僕たちの中で、ずっと続いていたに違いない。
その後、少し美術に触れ、ピカソのような訳にはいかないと思いつつも、どんどん現れる新進気鋭の若手アーティストに疑問を持つのも仕方がない。

ポロックは、自分のやりたい事は、全部ピカソがやってしまったと言っていたというエピソードを読んだことがある。
その後、ドロッピングやアクションペインティングをリードし、今最も高額で取引される作品を制作したポロックも、実は、生きていたら、それほどの値段ではなかったのかもしれないと思うと、ちょっとショックだったりもする。

そんな事言われたら、過去の偉人の作品だって疑問に思う人がいるかもしれない。
ダヴィンチの作品として近年発見された、エンディングに映される「サルバドール・ムンディ」の4億ドルも怪しいのか?
シンガポールにあるはずの「アイルワースのモナリザ」はダヴィンチ作品としては、疑問点が多くなってきるようだが、シンガポールの企業グループは、これに一体いくら支払ったのか?
もう考え始めたらドキドキしっぱなしだ。

だが、アートの価値なんて値段と比例するわけではない。
誰にだって(そうではないかもそれないが)好きな作品の一つくらいあるだろう。
仮に自分で所有できなくても、美術館に足を運べばいつでも見れるのは喜ばしい事だ。

大学の一般教養の英語の授業のテキストが、「from Giotto to Cezanne」という美術本だった。
フラ・アンジェリーコの受胎告知の解説で、ヴァージンのマリアが妊娠し、処女と妊婦という矛盾を表さなくてはならなかったという説明を読んで、いたく感動したのを覚えている。
その後、バックパッカーをして、フィレンツェを訪れ、このフレスコ画を見たときに、更に驚いたのが、マリアは明らかに戸惑っている表情をしていた事だ。
マリアにはフィアンセがいて、ヴァージンなのに妊娠して、それは神様の子供だと言われ、戸惑わないわけがないのだ。
フラ・アンジェリーコは、神のストーリーを借りて、人間の一瞬の戸惑いを描いていたのだ。

アートは、そんなところに発見や驚きがあって、個人個人の中に価値を生み出すものではないだろうか。

それにしても、ジャスパー・ジョーンズのターゲットは、くれるんだったら、大事にするから僕も欲しい(笑)。

そして、コマーシャリズムから距離を置いて制作に時間を費やした、ラリー・プーンズの作品達の瑞々しいしさを劇場の画面で見たとき、何か気持ちがパッと明るくなる気がして、胸が熱くなった。
あのプーンズ展にいたオバさんじゃなくたって涙が出て出そうだった。

本当に素晴らしいと感じるアートには値段など重要ではないのかもしれない。
特定の美術教育など受けていない、例えば、発達障害の人などが制作するアール・ブリュットは、非常に多くの人々の心を惹きつける。
そういう感動を見つけることが出来れば良いのだ。
アートの価値を値段で減じるようなことがあっては悲しいではないか。

ワンコ
ワンコさんのコメント
2019年9月19日

きりんさん、こんにちは、
そうなんですね。家出ですか。
フラ・アンジェリーコは良いですね。
フレスコ画の、その場で見た!体験も重要ですよね。
僕は一年ほどロンドンに赴任していたことや、その後旅行したこともあり、最後の晩餐と、最後の審判は、それぞれ、修復前、修復中、修復後のものを見ました。人に話すときは結構自慢話しですけど、見た印象としては、一番最初に見た時が一番大きいように思います。つまり、修復前ですね。まあ、全体の印象が残るんでしょうね。
僕はアメリカの銀行に勤めてたことがあるのですが、その銀行の大株主一族は、現代アートを買いまくってましたよ。影響で、銀行自体もちまちま買ってましたけど、まあ、二束三文でも若手アーティストを育成するみたいな謳い文句もあったような気がします。
でも、バスキアは高すぎ(笑)。バンクシーは、彼の、ガザ地区にホテル作るとか、社会的精神性は好きですけど、ヤッパリ高すぎると思います。僕は、事情があって売ってしまいましたけど、草間彌生さんの作品が高騰してるのに対し、キースへリングが下がりっぷりに驚いたことがあります。
ルーブル行くと、リトの原版を保管してるものについては、刷れる限り、お安く分けてくれるので、その程度が一番だと思います。

ワンコ
きりんさんのコメント
2019年9月19日

ワンコさんこんにちは

絵画の価格の意味を考えるとき、最近の巷の話題は前澤さんのバスキアとか。「オーシャンズ8」にも珍登場するバンクシーとか・・
作者も所有者も世間から叩かれ続けですが、動機はなんであれお金持ちにはお金持ちらしく美術品と作者を庇護するためにどーんと出資をしてもらいたいものです。

【受胎告知】
ワンコさんバックパッカーでフィレンツェへ?
サン・マルコ修道院の階段を上り切った壁にそのフレスコ画は突如現れて、あっけに取られてしまったのを覚えています。マリヤも驚いていましたが僕も負けじとあの絵には驚きました。

僕は30代に家出してアシジ~フィレンツェ~カプリ島を放浪。アンジェリコ、ジョットー、マザッチオに会いに。
壁から外せないフレスコ画は、地球にしっかり固定されているので僕らがそこに行かなくちゃならないって愉快さがあります。
あの体験に値段は付けられません。プライスレスです。

行っといて良かったですね。

カプリ島のヌーディストビーチの話はまた今度。

きりん