「廃れたメロディライン」星屑の町 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
廃れたメロディライン
なんつうか…和む?
それとも老いる?ダレる?余生の穴埋め?ムード歌謡という独自の世界観をどお表現していいのか分からない。
なのだが、前時代的なメロディラインを居心地悪く感じてない俺はなんなんだ?
なんでこの作品を撮ろうと思ったんだろう?ムード歌謡の復権なんて事はあるわけないだろう。町興し的な事でもないと思う。
そう…野心を感じないのだ。
そもそも、そんな大義名分などいらないってスタンスでスタートしたのかもしれない。
なんか、あくせく足掻く自分とは違う世界の話しのようで…俺の現実とリンクしなさすぎるのだ。
物語もなんだか漠然としてるし…結末もなんかスッキリしない。
温泉街の営業でああいうステージが実際にあるんだろうけど、出会した事も無ければ興味もない。出会したとしても、わざわざそれを観てる自分は想像できない。
ただ…歌詞がすんなり耳に入ってくる。
聞き取れないって事がまずない。
オリジナル曲で「シャボン玉」ってのがあるんだけど、悪くないって思えちゃうのだ。
癒されるわけではないんだけど…なんだろこの脱力感は?
全編通してゆる〜い空気感だった。
設定がどこかのド田舎で、流暢な方言が耳に楽しい。役者陣が実に巧みで…のんさん、菅原さん、小宮さんを筆頭に皆様素晴らしかった。
カタカナのお二方の芝居がステージの上と差異がなく芝居じみた感じが払拭されずで残念だった。
戸田恵子さんの美声にうっとり。
さすがは声優さんで、歌いながらも1音1音が明確な感じで、滑舌の良さが際立つ。
作品的にはなんら意図する事もないように思え…のっぺりした印象。
エンドロールに「あまちゃん復興委員会」だかなんだかのコールがあり、あぁこれはのんさんの為の作品だったのかと凄く納得。
歌声にしろ方言にしろ、ギターまで披露して…掃き溜めに鶴って感じもありで、彼女の良さが余すとこなく出てたように思う。
総じてのんさんのPV、かな。
ムード歌謡って需要あんの?
俺にも需要を感じる時期がくるのだろうか?演歌のように日本の心ってわけでもなく、第一線のミュージックシーンとはかけ離れてる。ポップスって言う程ポップな感じもないし…隙間産業的な立ち位置なのだろうか?
極めて中途半端で淘汰されていった分野であるはずなのに、この息の長さはなんなのだろう?何が需要を産むのだろうか?
ムード歌謡を楽しめた人達が全員死んだら、このジャンル自体が成り立たなくなるように思え…次に年号が変わる頃には、口ずさむ人は誰もいないんじゃなかろうか。
■追記
ふとカチッとハマった単語があるから書き足してみる。
前述した「野心」っものだけど、そもそも介入できるような下地はないのかもしれない。
では続けていくモチベはなんなんだろうか?献身的なサービス精神なのかと思う。
まるで恋愛のソレに似てる。
温泉街のステージで爆音を流されても疲れるだけだろう。日々の疲れを取りに来てるのに捲し立てられても迷惑だ。
高音を駆使し、変調やら使われてもテレビから流れるソレと変わらないだろう。
日常を遠ざける空間。
「このステージをしてる間だけは、どおぞ肩の力を抜いて楽しんでください。お客さんが楽しんでくださる顔が見れるのが僕ら1番楽しいんです。」
そんな理念があるとするなら、それはもう純粋なエンタメ精神の根源じゃないか。
確かに俺はボンヤリできた。
物語を追うのに思考を酷使する事もない。つまりは好きではないけど嫌ではないのだ。
…嫌、ではない。凄い事だ。
バブルの世代だったか現代の音楽を現すキーワードはなんですかって質問に小室さんだったと思うけど「雑音」って答えてた。
当時めちゃくちゃ納得した。
何かしらの音が絶え間なく聴こえてきてたら1人を誤魔化せるとかなんとかって理由だった。
コレはそうではない。
どっかから聞こえてくる音楽でも、自分の為の主張でもない。
あなたへ歌ってるって事なんだと思う。
だからスローだし、歌詞も分かりやすい。
誰が聞いても、聞こえてくるんだ。
おみそれしました。
ムード歌謡自体に野心はなくても、この作品自体はとてつもなくアナーキーな反骨精神から想起されたのかもしれない。
と、なんか妙なところで想像力が働いて、勝手に合点がいった昼下がりであった。