「真骨頂」初恋 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
真骨頂
鬼才がその鬼才ぶりを遺憾なく発揮してる。そしてロマンチックな監督だと改めて思えた。
三池風ラブロマンスが沸騰してた。
「初恋」のタイトルに似つかわしく、のっけから首が飛ぶ。…ちょっと待て。
いやいや…「え?」これからどうやって初恋が語られていくのだろう?何かの揶揄なのか?そんな冒頭の困惑を物ともせず物語はドストレートに「初恋」を描き完結した。
社会から消去されたようなヒロイン。
父親の借金のカタに身売りされ、シャブ中にされ体を売る。
全うな人生を歩みようのなかった主人公。
親に捨てられ顔すら覚えてない。
ボクシングで注目されるが本人には向上心のようなものもなく体を張って金を得るも、その胸の内は空虚なままだ。何1つ達成感もなく脳内に腫瘍があると宣告される。余命幾ばくもない。
そんな2人が出会うまでが丁寧に描かれる。
どん底でどん詰まりの人生が事細かに。
出会ってからのバイオレンスは容赦がない。
怪優に変貌した染谷将太を筆頭に端役に至るまで熱演だった。いや、その鼓動が聞こえてくるくらいに作品の中に生息してた。
昨今のコンプライアンス重視の風潮を歯牙にもかけず、強固な壁であるはずのコンプライアンスをまるで紙よりも薄いもののように突き破り疾走する。
その様が心地いい。
暴力に陶酔してるわけじゃなく、その潔いまでの覚悟が心地よいのだ。
そのバイオレンスが表現するのは苛烈なまでの生存競争と欲深き人間性で、それが故に動物と区分されるような部分だ。
つまりは、そこを抜きには人間を描ききれるはずがないと断言してるようにも思える。
そんな集団の片隅に自分達も生息しているとの自覚をも促してくれたりする。
そのバイオレンスの必然性にも無理がなく、覚醒剤をめぐる裏社会の対立が描かれる。
コレがまた見応えあって…ドラマを作るのはキャラクターって表現がピタリとハマる。
見事な采配だった。
適度な皮肉やユーモアも挿入されていて、ヤクザの組長代理がパラリンピックのピンバッチを身につけていたり、人柄と思えばクスッと笑うし、癒着ととれば強烈な曝露にもなり得る。
大陸からきた女性のヒットマンが仁侠の心意気を理解していたり、幻覚である父親が阿波踊りを始めたりと…噛めば噛むほど味わい深いマテリアルが散りばめられてる。
そんな血で血を洗うような非日常に巻き込まれる主人公たち。
このまま闘争で締め括られるのかと思っていた矢先、スマホの留守録に驚愕の事実。
「どおすんだ、レオ!?」と物語は予想だにしなかった分岐点を明示する。
ラストは殴り合いと斬り合いだ。
ここに来て主人公の生涯が報われるようでもあり、これをもって救済とするのかと、監督の男気を感じたりする。
冷静でいながら断固たる決意で拳を奮う、主演・窪田氏の目が印象的だった。
彼はこの時にボクサーとしての背骨を手に入れたかのようだった。
斬り合いの方は意地と意地のぶつかり合いだ。死ぬのは別に構わない。ただ俺が死ぬのはこいつより後だ。死んでもそこだけは譲らない。そんな鬼気迫る斬り合いだった。
大陸からの風当たりの強い日本。明確な反旗も反論も出来ぬままのような気がしてならない。そんな鬱屈した空気を吹き飛ばしてくれるかのようだ。
作品にそんな比喩も意図もないとは思うが、俺の気持ちは晴れた。権藤が背負うのは高倉健だ。日本男児の気骨の象徴だ。
ラストにかかるシークエンスでは、彼女の初恋と遭遇する。
彼女の初恋が幕を閉じ、彼の初恋が始まりを告げる。
薬物治療で狂おしいまでの中毒症状と戦う彼女。己が生きる理由を自覚し、迸る感情を露わにする彼。
ラストは無音のロングショット。
未だ生活に余裕はないが、それでも楽しそうに我家に帰っていく2人。おまけに雪まで降っている。流血で朱に染まるこの世界を、真っ白な雪が覆い隠してくれるようだった。
このラストがロマンチックでなくてなんだと言うのだあぁぁぁぁッッ!!!
振り返ってみたら血みどろの悪鬼羅刹供は、共喰いの末、全員鬼籍に入り、愛を育む未来だけが残る。
おそらくならば、この映画を観たクエンティン氏は地団駄を踏み悔しがる事だろう。
それでもクエンティン氏ならば、監督をハグし「Excellent!!」と絶賛してくれるかもしれない。
堪能させてもらいました!
煮え切らない現代社会を一蹴する痛快なストーリーテリングに拍手喝采!!