「ベッキーに(文字通り)打ちのめされるために行く映画。」初恋 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ベッキーに(文字通り)打ちのめされるために行く映画。
かねてから願っていた、三池崇史監督作品の劇場での鑑賞が初めて実現しました。そんな三池作品初心者による感想です。
出演している俳優はみなそれぞれ役どころを見事に演じていました。窪田正孝扮する主役、葛城レオの、女性とのコミュニケーションに慣れていない不器用さや、染谷将太扮する加瀬の一見インテリだが、結構脇の甘い役どころなど、どの役にもきちんと見所が用意されています。
しかし何と言ってもヤクザの情婦ジュリに扮したベッキーの、怪演とも言える振り切った演技が素晴らしいです。他の出演者が比較的声調や表情で演技していることとは対照的に、ベッキーは全身で演技していて、彼女が登場する場面だけ明らかに映画の調子が変化します。彼女が映像を引っ張っているというべきか。
その異様な振る舞いの演出、終盤で舞台になるある場所から察して、明らかにあるジャンル映画の影響がありますが、終盤の一番の見せ場での彼女の扱いが少しあっさりしていたように思え、そこが本作で唯一物足りなさを感じたところでした。それを差し引いても実に素晴らしい演技でした。
夜の新宿や渋谷(?)といった街角、薄汚れたマンションなど、場面の多くは暗く沈んでいますが、それだけに細部にまで気を配った美術、特に汚れの描写がとても見事です。こうした暗部の描写、美術の細やかさなどは、劇場でしか体験できないでしょう。
画面を支配する暗部はもう一つ、俳優に宿る光(いわゆるキャッチライト)の効果を高めています。ベッキー(と染谷)には狂気の光、そして主演の二人には生気溢れる光が宿り、他方で中国系マフィアの幹部の眼は暗く沈んでいて、それが却って思考の読めない不気味さを強調しています。キャッチライトによる人物描写自体は、特に真新しい演出技法ではありませんが、本作は特に効果的に用いていると感じました。
演出は特に露悪的で、嫌悪感を持つ観客も少なくないでしょう。もっとも三池監督は元々そうした観客層を一顧だにしていないでしょうが。ただ本作に限って言えば、この題名、そしてポスターの雰囲気は一見すると恋愛ドラマを想起させるもので、中には勘違いして鑑賞する観客もいそうです。そうした無垢な観客を誘い込んで、阿鼻叫喚の地獄巡りをさせることも監督の狙いに含まれているとしたら、ますます本作が好きになりそうです!