劇場公開日 2019年9月20日

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「鬼才ではないことの価値」見えない目撃者 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5鬼才ではないことの価値

2020年7月11日
PCから投稿

演出が上手である。日本映画では珍しいと思う。テレビでも蛇のひとや破門やミスシャーロックなど、おやと思わせるものを撮っている。映画は寡作だがリトルフォレストの監督でもある。手堅くて、妙なクセがなく、有り得なさが、気にならない。

美しい女性が損や禍を負っているとき──きれいな人が盲であるとき、そこだけでドラマを感じてしまう。あまり感心できる了見ではないが、そういうものだ。そこへ、事故死にたいする良心の呵責と無力感が加わって、暗い主人公を一層魅力的にみせる。それは映画的で、リメイクの旨意はよく解る。

すべて諦観しているとはいえ、彼女には、まだ微かに、生き続けることへの執着、警察官になれたことへの矜持が残っている。その微かな自尊心によって、事件が明るみになる──その導入は、順当に受け取ることができるものの、捕り物へ移行してしまえば、あとは有り得なさとのせめぎ合いである。

その有り得なさを、うまく抑えていた。脚本には調整の余地を感じたが、この監督でなければ、もっと破綻するはずの映画だった──と思う。キムハヌルの映画より、Don't Breatheや聾のHushを思わせる感じもあり、対決は武士の一分のようでもあった。

が、決定的な瑕疵はないけれど、小さくまとまっている。真面目な女優が真面目に演じているのがよく解るが絶望や自虐がもっと荒々しいほうがよかった。

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津次郎