「【戦禍で生まれた恩讐を、サッカーを通じて描き出した作品。ナチス・ドイツ兵だった男の数奇な人生に魅了された作品でもある。】」キーパー ある兵士の奇跡 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【戦禍で生まれた恩讐を、サッカーを通じて描き出した作品。ナチス・ドイツ兵だった男の数奇な人生に魅了された作品でもある。】
ー連合軍の捕虜になったナチス・ドイツ兵のバート(デヴィッド・クロス)は、英国のランカシャー収容所に送られる。収容所所長は、厳しい態度でドイツ兵捕虜たちに接し、バートにも目を付け、トイレ掃除を命じる。
が、休憩時間中にサッカーをしていたドイツ兵たちの姿を見た地元弱小サッカーチームの監督ジャックはキーパーをしていたバートの素質を見抜き、収容所関係者と話を付け、自分のサッカーチームのキーパーに抜擢する。
ジャックは、当初は収容所から試合に連れて行っていたが、バートの要望で、自分が営む雑貨屋の手伝いをさせながら、キーパーをさせる・・。-
■印象的なシーン
1.バートがジャックに”喉を怪我したことにして喋るな”と言っていたのに、バートが自らチームメイトに話すシーン。反発する選手たち。
だが、バートのファインセーブ連発により、久しぶりに3-0で勝利し、下部への陥落を免れた辺りから、彼らの溝は埋められていく・・。
ーバートがドイツ人としての誇りを持つ男、誠の心を持つ男である事が良く分かる。ー
2.バートを警戒していたジャックの娘マーガレット(フレイア・メーバー)だが、彼の優しさ ー逃げた小鳥をそっと手で包み込むように捕まえる姿や、妹バーバラに竹馬(英国でもあるんだなあ・・)を作ってあげる姿ーを見て・・。そして、矢張り試合でのキーパーとしての格好良さに惹かれていく。
ーマーガレットに恋するチームメイトとの雨中のPK対決シーン。ー
マーガレットの家族もバートに優しい。皆で夕食を囲むシーン。バーバラは特に嬉しそう・・。バーバラの部屋を与えられ、久しぶりに少し小さいベッドで嬉しそうに寝るバートの姿。
そして、バートとバーバラの電光石火の結婚・・。
ーえ、もう結婚しちゃったの? 早いなあ・・。-
3.バートの力量を見ていた、マンチェスター・シティの監督ジャック・トンプソンは彼を入団させるが・・。記者たちの鋭き質問の雨霰。マンチェスター・シティの有力な支援者だったラビ・アルトマンはシティへの援助打ち切りを申し出る・・。
初戦の、アーセナル戦での観衆からの激しきブーイング・・。
ー■鉄十字勲章:ドイツで戦功の有った者に与えられる勲章。バートが言うように功労章的な位置づけであったようである。だが、バートの責任を問う鋭き声は止むことがない・・。バーバラの懸命に夫を擁護する言葉が心に響く・・。-
4.劇中に度々出てくる、戦時中にボール遊びをしていたのに、ドイツ兵にボールを取られてしまった貧しき格好の男の子の姿。そして、序盤での男の子をバートが助けるシーンが頭をよぎり始める・・。
ーもしかして、バートがマーガレットに激しい口調で語った”君は自分の恥を語れるのか・・”と言う言葉は・・。-
そして、試合で大怪我をしたバートが自分の過去をマーガレットに話そうとした時に愛息子ジョニーに訪れてしまったあの悲しきシーン。ー
5.悲しみの中、バートはマンチェスター・シティの守護神として活躍を続け、とうとうFAカップを掛けたバーミンガムとの一戦に臨むバート達。
バートの真摯に試合に臨み、懸命にプレーする姿を見て、支援再開を発表するラビ・アルトマン・・。
6.愛息子ジョニーの墓参りをしている所に現れた男。それは、且つての収容所所長のスマイス軍曹だった・・。
ー彼が、戦時中、ドイツ兵たちにキツク接していた理由が判明する。取っ組み合いになる二人だが、スマイス軍曹がバートに”渡したモノ”・・。それは、彼が”自らの恥を忘れないように”大事にしていたモノだった・・。-
<この作品が心に響くのは、バートを単なる英雄として描くのではなく、彼が心に抱える”罪悪感”を引きずりながら生きている事、ドイツ兵として“贖罪”の意識を持ちながら、真摯にプレーしている姿がキチンと描かれている所だと、私は思う。
多少、ストーリー展開に粗い部分もあるが、見応えがある作品である。
ナチス兵から、英国民の英雄にまでなったバート・トラウトマンさんの激動の人生に驚くとともに、敬服の気持ちが鑑賞後に湧き上がって来た作品でもある。>