「期待したほどの濃厚なレズビアン場面もなくて個人的にはがっかりだが・・・」燃ゆる女の肖像 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
期待したほどの濃厚なレズビアン場面もなくて個人的にはがっかりだが・・・
この作品、女性監督のセリーヌ・シアマとダブル主演のエロイーズ役のアデル・エネルがほんまもんのレズビアンカップルで付き合っているということで、大いに期待しておりました。「英雄は嘘がお好き」「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランの美しい裸体が惜しげもなく見られると思い、期待しておりましたが、その点では完全に裏切られて、チクビさえ見られませんでした。私と同様に邪な鑑賞動機の輩はさぞ肩透かしを喰らった感でありましょう。
しかしながら、冒頭のボートのシーン、海に落ちたカンバスをみずから飛びこんで拾うシーンはわざと濡れて暖炉の前での全裸シーンのためのもの。船に乗ったまま引き上げればいいのにね。ありがとうございました。
エロイーズ役のアデル・エネルは顔の輪郭や口元が石橋静河に似ており、二重瞼がきれいで、長いカットが多かったです。監督の強い思い入れを感じました。
素朴な祭りでの女たちの歌うアカペラの曲がエンドロールでもかかり、この作品の独特な雰囲気を感じることができました。
女中のソフィ役のルアナ・バイラミも魅力的で、3人の関係も面白かったです。とくに、ソフィの妊娠が発覚して3人が流産の手助けをするシーンが結構長く、面白かったです。浜辺で3人が草を探すシーンでは、花が枯れてはだめだとか言う会話がありまして、花に毒のある堕胎に使える植物があるのかな?タイの地方の豪族の一夫多妻を描いた映画(題名忘れた)を思い出しました。エロイーズの母親(女主人)が戻って来るまでにオロす必要があるらしく、相手はたぶんほっそりした若い下男だと思われました。ソフィはなかなかチャーミングで、堕胎を村の女性に頼んだすぐあとにそのシーンを再現したポーズをソフィとエロイーズにさせて、ひと作品描きあげるシーンも印象的でした。当時の女流画家はエロチックな絵は描いてはいけない風潮があり、テーマも男性画家に比べ極端に限られるとマリアンヌ(ノエミ・メルラン)自身がエロイーズに言う場面があったので、3人がマリアンヌの創作を応援していることがわかりました。オルフェィスとエウリデケのギリシャ神話を読むシーンは最後の二人の別れのメタファとなっており、28ページの余白にマリアンヌが描いた自画像をエロイーズが大事にしていたことがのちの絵画博覧会でのエロイーズと娘の絵にも表されています。娘の顔がなんとなく、マリアンヌに似ておりました。画家に注文をつけたのでしょう。最後の方で、別れを受け入れながらも、互いにいつ好意を感じたか聞き合う場面は二人が充分に愛を確かめあったあとだけにとてもいいシーンでした。エロイーズがマリアンヌが経験者であることに興味を示したときに、マリアンヌはこれはイケると思ったと告白するのですが、エッチだなぁと感心しました。最後はオペラの会場でマリアンヌはエロイーズを見かけますが、エロイーズがマリアンヌに気が付かないのかどうかわからないまま、ただただ泣いて終わるのが大変よろしかったです。