劇場公開日 2020年2月21日

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「【”手足は縛られても、心は縛られない。” 信念を貫き通した男の姿を美しいオーストリアの山岳風景を背景に描き出す。有機的集合体の全体意思に抗う難しさが、逆に男の姿を崇高に表現した作品でもある。】」名もなき生涯 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【”手足は縛られても、心は縛られない。” 信念を貫き通した男の姿を美しいオーストリアの山岳風景を背景に描き出す。有機的集合体の全体意思に抗う難しさが、逆に男の姿を崇高に表現した作品でもある。】

2020年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

 ー オーストリアの山岳地域で生きる男の信念:罪のない人を殺める事は出来ない・・。ー

 ・愛する男の信念を貫く姿を、懸命に心の葛藤を抑え、村人達からの誹謗中傷に耐え、支え続ける妻の姿。
 男を心配する母親。陰ながら支える僅かな人々。

 ・舞台は、第二次世界大戦中のオーストリア山岳地帯の小さな村。人々は斜面の草を刈り、干し草にして家畜を育て野菜を収穫する日々。
 が、村の男達に、大戦拡大に伴う招集令状が届き始める・・。

 ■この作品が観賞中に心に染み入ってくる幾つかのシーン

 ・男が聖人として描かれている訳ではなく、妻や娘たちを心から愛する普通の男である事。
 (あの、目隠しをしながら斜面で鬼ごっこをする幸せそうな家族の姿。)
 そして、揺れ動く心を隠すことなくフランツを演じたアウグスト・ディールの沈鬱な横顔。

 ・夫の行く末を案じ、村人の冷たい視線に傷つきながら、3人の娘をきちんと育てる妻ファニをヴァレリー・パフナーが気丈に演じる姿。そして、彼女をえる姉とフランツの母との強い絆。

 ・村人たちも、村長を含めた数名以外はどこか後ろめたさを漂わせている。(テレンス・マリックの為政者に対する鋭い視点が垣間見える。)

 などが、抑制したトーンの中で、きちんと描かれている所である。

 ・更に、反逆罪で捕らわれた”罪人”達が高い壁に囲まれた収容所に収容されている場面でも、他の罪人達が不安から壁内を物憂げにうろつく中、フランツは空を見上げている。ファニも近き山の上に広がる空を見つめている。

 ・フランツに死罪が言い渡された後、人払いをし、フランツにある言葉を呟くドイツ軍判事の姿。(ブルーノ・ガンツ:言わずと知れた名優。彼の名優の死は実に残念である。)

 ・山の風景も時に穏やかに、時に黒く湧く雲で覆われたり、二人の置かれた状況の反面鏡のように表情を刻々と変えていく。

<最後半、フランツが子供達に宛てた手紙の文面がモノローグで流れた場面では涙が滲んできてしまう。

 ”ママがこの手紙を読んでくれる頃、パパはもういない・・。でも神様の恵みで、又会えるよ・・。これからは、お祈りする時には僕のことも忘れないで・・。”

 そして、エンドクレジットで流れたイギリスの”今やほぼ無名の作家 ジョージ・エリオット”の文章
 - 世の中の善は、突出した英雄だけではなく、名も知れぬ平凡な人達が”揺るぎない信念を持って”より良く生きていることに支えられている。 -

 というフレーズを観て、とても救われた気持ちになった作品。

 舞台は第二次世界大戦中であるが、”現代の状況を鑑みても”、重い命題を私たちに突きつけて来る素晴らしき作品でもある。>

NOBU