「怒りと憎しみが、報復へと変わるメカニズム」レ・ミゼラブル 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
怒りと憎しみが、報復へと変わるメカニズム
2019年(フランス)
カンヌ国際映画祭審査員賞ほか多数受賞した作品。
有名なヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』とは題名だけ同じ。
レ・ミゼラブルの意味は「悲惨な人々」
この映画も悲惨だ。
子供を主役に置いてるが、手法がリアル。
子供も立派な社会の矛盾の被害者であり・・・また立派に犯罪予備軍で、
その後継者に育つ。
そのメカニズムが104分の映画の中で、見事に表現されている。
レミゼラブルの舞台となったモンフェルメイユは今は移民や難民の犯罪多発地区に
なっている。
ラジ・リ監督もモンフェルメイユに生まれ今も住む。監督もアフリカ系の移民2世。
《フランスの現在のカオスを伝える映画です》
フランスがサッカーのワールドカップ優勝にわく2018年。
子供がライオンを盗んだことなど、ほぼ実話だと言う。
モンフェルメイユの犯罪防止班に新しく赴任したステファンは、
正義感の強い真面目な警官。
そんな犯罪防止班をきりきり舞いさせるのが、イッサなどの、
子供たちなのだから、恐れ入る。
子供に右往左往させられる警官の図式が、この映画のテーマの根っこの深さを
物語っている。
純真な子供なんて視点は皆無。
子供は親をしょっぴく警官を生まれた時から見て育つ。
物心ついた頃から盗みを働く子も多い。
イッサは12歳くらいのアフリカ系の子供。
鶏を盗み父親にこっぴどく叱られるのを警察署でステファンは目撃する。
さらにヒヨコを盗み、なんとロマのサーカス団からライオンの子を盗み出したイッサの悪戯は、冗談では済まされなくなる。
更に仲間と騒いだイッサを犯罪防止班の警官がゴム弾で射撃してしまう。
意識を失うイッサ。警官は救急車さえ呼ばない。
有耶無耶にしたいのだ。
正義感から責任を感じるステファン。
更に悪いことに射撃の現場をドローンで撮影されていたのだ。
もうカオスです。
この後半の展開はギャング映画以上の凄まじさになる。
イッサの仲間の子供たちは神出鬼没のストリートギャング!!
迫撃砲に花火爆弾。
迫撃砲はまるでロケット爆弾のように派手に炸裂する。
警官の車は破壊の限りを尽くされ、スクラップ状態。
なぜ、なぜ、これほどまでの激しい怒りと憎しみが子供の心に育つのか?
サッカーでフランスを応援するイッサに祖国とは何処なのか?
生まれた国を憎み、生まれたことを呪う。
正しいことをする警官ステファンさえ、
彼の正義感を逆撫でする事態に・・・警官だって人間だ。
ラスト。
仁王立ちするイッサは悪魔(サタン)にしか見えなかった。
「悪い草も、悪い人間もいない。」
「育てる者が悪いだけだ」
by ヴィクトル・ユゴー
今晩は。
”ヴィクトル・ユゴーの警句:”友よ・・・、悪い草も人間もいない、育てるものが悪いだけだ”
昨晩、この言葉を想起させる素晴らしき邦画を見ましたよ。
”人間の善性は、悪性にはそう簡単には屈しない。”と私は信じています。
では。
(現時点で、二人、屈している輩がいました・・。ロシアと、中国を統べる男です。)