「働けど働けど、我が暮らし、楽にならざり、じっと手を見るの心境。」家族を想うとき マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
働けど働けど、我が暮らし、楽にならざり、じっと手を見るの心境。
ミニシアター系で話題となっていた作品をやっとこ鑑賞しました。
で、感想はと言うと、重い。
あと個人的にラストの締め方が物凄く後味が悪い感じがします。
文学系の作品なので、こうなるんだろうけど、重いテーマを突き付けられて、出口が見えずに彷徨い歩く感じ。
夢も希望もあった物ではない。生きる気力は家族だけ。
負のスパイラルに陥ったと言えば、もうその通りなんですが、そこに足掻き苦しむ。
もう切な過ぎます。
石川啄木の「働けど働けど、我が暮らし、楽にならざり、じっと手を見る」の言葉を思い出しました。
リッキーは仕事を転々とし、配達業務の仕事にありつくが、会社とは個人事業主として契約。
生活の為、家族を養う為に遮二無二働くが個人事業主でフランチャイズとしての様々な制約がリッキーを苦しめる。
妻のアビーも訪問介護の仕事をしていて、過酷な労働を強いられる。
マイホームを夢見て、一刻も早く借金を返済する事を意識する事で仲の良かった家族との間に不協が響いてくる。
と言うのが大まかな荒筋でブルーカラーの職業問題は決して他人事ではない。
日本でも様々な働き方改革が取りざたされてますが、正直何処か他人事の様な感じがして、浸透しているとは言い難い。
働き方改革は本来企業と個人が同じ歩みで考える物かと思いますが、企業側の事情からか、そこまで追い付いてない(考えてない)感じがしますし、職種にもよるかと思います。
劇中でキーワードとなる個人事業主と言う形態は本来は自営業者に当たる物であるけど、フランチャイズでの個人事業主はその言葉通りではなく、意味合いも変わるし、いろんな制約が付きまとう。
日本でもアルバイトを個人事業主として契約させて、問題になってた事例がありましたが、企業側が得をする契約は山程あって、その手の問題は尽きません。
仕事の選択肢が少ない者には選ぶ程の余裕もなく、身を削って働き、食い物にされていく。
こう書くと身も蓋もないぐらいに切なく暗い。
それでも生きていかなければならない。家族を養っていかなければならない。
リッキーの思いと行動が切な過ぎます。
息子のセブが反抗期でいろんな事件を巻き起こしますが、根は良い奴。ただ父親への暴言はちょっと戴けない。
演じるリス・ストーンは低音の効いた良い声w
娘のライザが健気で良い子。“この子がいるだけでお父さんは頑張れるんだ!”とばかりに良い娘さんなんですよね。
終盤で以前に宅配した客から暴行を受け、荷物を奪われる。
病院で検査を受けている間にも会社からは連絡があって、様々な違約金と賠償金を伝えられる。
唯一の救いは妻のマギーが会社に怒りをあらわにし、息子が帰ってくる。
重症の身であるが、リッキーはそれでも翌日会社に出社しようとする。家族の制止を振り切って。
“どないせいちゅうねん!”とばかりにもう観ていて切なくて、会社に怒りが込み上げてくる。
“そこまでして働かなくてはいけないのか?”この問いには様々な意見があるかと思いますが、家族を持つリッキーの覚悟とも言えますし、そこまでしなければならない現実を問い掛ける監督のメッセージでもあるかと思いますが、それでも辛いなぁ。
原題の「Sorry we missed you」には2つの意味があるとの事で、1つは宅配の不在票に書かれた「お届けに伺いましたがご不在でした」と言う意味と、もう1つは「貴方を見逃していてごめんなさい」と意味があるとの事で、作品の意図を表現した上手いダブルミーニングかと思います。
邦題も悪くないけど、原題で良かったのではないかな?と思います。
また作中で老人が後ろ足の欠損した犬を散歩をさせていたシーンがありましたが、個人的にこれが印象に残っているのと、ここにもケン・ローチ監督の意図が隠されているのではないか?と勝手に推測w
歩く事は出来るけど、やはり不自由で不具合を生じる。
後ろ足の不自由な飼い犬は社会や会社に飼われている市民であり、足の不自由さは社会の不自由さ。
何かが足りない中でも前に進む事のメッセージなのではないかなと考えたりしたのですが、ちょっと深読みかな?
働く事は生きる事。
生きる為に必要な事。いろんな物が絡み合うけど、本来生きる事はもっとシンプルなのかも知れない。でも、いろんな事を考える…
いろんなメッセージが隠されていて、ただ重いだけではない。
深いメッセージと社会の歪みを描いている「良薬口に苦し」な作品で見応えがありますが、…やっぱり重くて、「映画はハッピーエンドが良いなぁ」と思ってしまいます。
それでも、観て損は無いと思いますし、いろんな事を考えさせてくれる作品です。
たまにはこう言う作品も良いかなぁと思いますので未鑑の方は如何でしょうか?
CBさん
コメントありがとうございます♪
そうなんですよね。原題の「Sorry we missed you」にはそう言った2つの意味があるそうなんです。
深いし、上手いなぁと思いますが、作品はなかなかヘビーですよねw
また、お暇がありましたら、覗きに来て下さいね♪