「「冷蔵庫にパスタが…」」家族を想うとき いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「冷蔵庫にパスタが…」
ケン・ローチ伯楽の渾身の作品といったものである。フェードインインフェードアウトの場面転換、ここぞのラストでの薄くしかし効果的に演出されるフィルムスコアもさることながら、オーバーな演出や過剰なシーンを排してもその厳しさをきちんと表現出来ている構築、心中に響く慟哭、この世の地獄を体現させる印象付け等々、その辛さの押し引きを見事に織込まれていて、フィクションだとはまるで感じない自然さを醸し出している。『ワーキングプア』等という、昔ならば小作人からの搾取が、この現代に於かれても以前として進化しない社会構造及び仕組みに対しての怒りと悲しみそして諦観を、鑑賞した者全てに深い爪痕として残すメッセージ性はとてつもなく崇高な内容である。劇中の家族に訪れる現代の悲劇を、唯こうして観ている以外なすすべもないもどかしさ、嘆きを一体何処にぶつければいいのか、これ程複雑な状況になぜ陥らなければならないのか、これはもはや砂漠で一人取り残された絵が浮かぶような心持ちなのである。子供達の頭の回転の良さや優しさや勇気のみが、この作品の救いなのである。大人達はもうこの爛れた世界を組立て直すことは出来ない。諦めのみが支配している現状を、ラストの父親の満身創痍での仕事へ向かう悲しい姿のカット一発で表現させてのエンドは、これ以上ない位の居たたまれない苦痛が充満した落とし方であった。普通の作品ならば、ここからが家族達の逆襲シークエンスとしてカタルシスをプレゼンスされるのだろうが、それ程甘くはないと、監督の厳しい叱咤が劇場内にこだまするようなそんな怒気を込めた叫びに、自分の人生のダメだしをされたような気持を抱いたのである。今作品は、“真剣”に時代を憂いているのだ。“不在票”なんていう概念がこの世を滅ぼすとつくづく感じる、心を掻き回された作品である。