「シーンシーンでの魅力もあるが、脚本がいまひとつ」鵞鳥湖の夜 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
シーンシーンでの魅力もあるが、脚本がいまひとつ
2012年、中国南部の田舎の都市。
雨が降りしきる夜、誰かを待ちわびる男(フー・ゴー)のもとに女(グイ・ルンメイ)が近づく・・・
といったところから始まる物語。
このオープニングがすこぶるいい。
夜、雨、見知らぬ男女・・・とお膳立てはバッチリ。
でしたが、その直後すぐにガックリ。
男の口からこれまでのいきさつが語られる。
男はバイク窃盗団のグループリーダー。
先ごろ出所したばかり。
縄張り争いから敵対グループと抗争になり、抗争中、誤って警官を射殺してしまう。
いまは当局から追われる身で、懸賞金が掛けられている。
その懸賞金を、故郷の妻に残したい・・・と。
いきなりの回想シーン。
それが長い。
はじめ、回想シーンと思わなかったです。
過去へ戻って、そこから順に話が進められるのね、と思ったのですが、男の話が終わると、今度は女の話。
女は、開発が進んで無秩序状態の鵞鳥湖で、「水浴嬢」と呼ばれる娼婦をやっているが、男の仲間の差し金でやって来た。
あなたの奥さんはやってくることはできない・・・と。
で、この回想シーンも長く、その後も、いくつか時制が前後する。
かつて、複数の脚本家と酒席をともにしたことがあり、回想シーンについての話になったことがあり、どちらの脚本家も回想シーンの多用はあまり薦められないとの意見。
そもそも、この映画の物語は3日間ほどの話なので、順番に話を進めていけばいいはず。
見知らぬ男の1日と、見知らぬ女の1日。
交互に描いて、中盤で出逢い、同道することになる・・・というのでいいのではありますまいか。
中盤以降は時制の前後はなく(というか、男を追う犯罪組織の行動と警察側の行動も描かれるので時制を前後させるとさらに混乱するだろうから)、映画のうねりも出てくるので残念。
陰影の濃い魅力的な映像、印象主義のような影をもちいた演出、猥雑なロケーションの魅力など見どころも多いのですが、先に挙げた回想シーンの多用に加えて、琵琶法師の弾き語りのような音楽、阿部寛の偽物っぽくあまり魅力のない男優と、マイナスポイントも結構目立ち、結果的には、策士策に溺れる的映画になった感がありました。