「山水景石」パラサイト 半地下の家族 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
山水景石
貼付いてくるその凶器は、自分の死を暗示しているかのような啓示だったのだろう。「責任を取る」という台詞に、伏線回収が成されているのは韓国映画としての矜持か、それとも『カンヌ』流の作家性の“臭い”の攪拌なのか・・・。それ以外は、とにかく“オトボケ”色満載の作品である。その煙に巻く展開は、観客の好みがハッキリと分断される問題作でもある。かなりの寓話性が伴うプロットなので、このフィクションを如何にリアリティに映像化できるかに監督の力量が試されるのであろうが、ポン・ジュノ監督、または俳優達のレベルの高さが“問題作”としての引き上げをたらしめたと強く感じた。
但し、後半の唐突な展開による第二幕の畳み方が、少々拙速気味なのが感じられてしまったのが寂しい。勿論、スリルとサスペンス感は充分演出されているのは体験できたが、クライマックスの激しさと、その顛末及び、ラストの兄貴の妄想?シークエンスを見せつけての現在時間に引き戻すオチは、“計画”と“無計画”というテーマ性故とはいえ、一筋縄ではいかない観客への忖度ゼロ度の宣言をぶつけられたようで、そこに何処まで監督の意図を汲み取ることが出来るか、リテラシー力のリトマス試験紙的作品なのかも知れない。文学性、作家性のみで構築されている今作に於いて、単純に経済格差、貧富の問題を引合いに出すのは簡単である。実は別の“地底人”が住んでいたなんていうオカルト色も驚愕した。唯、その大掛かりな仕掛けをしなければいけない程の訴えが、前述した“格差社会“へのアンチテーゼ、そしてルサンチマンへと結びつけるだけだとしたら疑問であり、もっとそれ以外の何かを”隠しテーマ“として訴えている筈である。それがどのようなものであるのか、頭脳が覚束ない自分では解明できる訳もなく、解釈の難しい今作の真意を、その都度考え続ける事になるであろう。それこそが狙いなのかも知れないのに…。
死んだ人、生き残った人、それぞれの境目にヒントが隠されていると睨んでいるのだが、ハテサテ…韓国の大学入試並の難易ということだけはハッキリ理解出来た。
PS.何故だか、翌日からずっと今作品の事ばかり気になり出し始める。何故、妹のみが犠牲になったのか、何故あの洪水の翌日も又、性懲りもなく金持ちの家に仕えたのか、兄がモールス信号を偶然発見した時期には、もう警察は尾行していなかったのか、そして最後の演出である、金持ちになって父親を救出するあの荘厳な場面を所謂”妄想オチ”としたのか、緻密で複雑且つ数多の伏線回収の施しにより、観た直後よりもこうして数日経った時に不意に脳裏をかすめてしまう今作品の底力に改めて驚愕するので、点数を上方修正することとする。
PS2.芥川龍之介著『蜘蛛の糸』を思い出して、今作のモヤモヤ感の一端は解消されたように思えた。今作の割り切れない最大のキモは、正に”弱者同士の醜い争い”に尽きる。この問題に”芯を喰った”概念の映像化が、今迄のどの映画作品よりもより鮮明且つ押し出しの強大さによって観客に揺さぶりを掛けているのであろう。本来ならば弱い者同士、連帯するのが清々しい。しかし現実は、圧倒的に覆すことが不可能である経済格差によって、人権そのものが停まる寸前のコマのように芯がブレてしまっている現代である。そして生存競争の対象は”施しを受ける神”ではなく、隣にいる同じ弱者なのだ。そのさもしさは、人間の本質として蓋をしてしまっておきたい”恥”なのである。パンドラの箱を開けた今作のアカデミー作品賞受賞を祈らざるにはいられない。
いぱねまさん
> 今作の割り切れない最大のキモは、正に”弱者同士の醜い争い”に尽きる。
ここの部分、私もそう思っていた為共感し、
>生存競争の対象は”施しを受ける神”ではなく、隣にいる同じ弱者なのだ。
この表現がしっくり来てなるほど、と感じました。
弱者同士が憎み合い裕福な家族には救ってくれると期待をかけていたことを上手く言葉に表せなかったんですが、「生存競争の対象」と見ていたと考えるとしっくり来ます。考えてみたら、家政婦という職を奪ったのですから露骨に生存競争ですね。
しかし反面、最後生存競争対象ではない社長を刺してしまったのは、同じ生存競争の床に立ち同族だった故痛みを汲み取れた(汲み取ってしまった?)のだ、とも考えられるようになりました。
ありがとうございます!
風希さん、初めまして
貴殿のページにレビューが見当たらなかったので、私のレビューにコメントさせて頂きます。ご覧頂ければ幸いです。
先ずは、私の拙い駄文を拝見頂き誠に恐縮です。貴殿のお気遣いとはいえ、大変励みになっていること、お伝え申し上げます。
『空気人形』、自分にとってとてもバランスの良い、自分が観たい特徴を余すところ無く放り込まれていて、レーダーチャートでいうところの綺麗な五角形?六角形?wだったのです。もう、随分鑑賞後から時間が経ってしまったので、今一度再鑑賞してみたいと思います。是非、貴殿もレビューをアップしてみて下さい。そこにコメントをさせて頂きます^^
はじめまして。
あの、、この作品のコメントじゃないのですが大丈夫でしょうか?
いぱねまさんのレビューを拝見させていただき、とても面白くて参考になります。
ベスト5で空気人形をNo.1に上げてらっしゃったので、早速レンタルして観ました!
ペ・ドゥナがとても可愛くて、ラスト以外はとても好きです。
いぱねまさんの感想が、こちらの空気人形ではレビューされていなかったので
聞いてみたいと思い、コメントさせていただきました。
もし…良ければで結構です。
突然なコメントで申し訳ありません! 風希
コメントありがとうございます。
しきたり……例えば〝表現の自由〟を大義名分に、深く傷つく人がいることなどは考えずにただ罵詈雑言を並べる人がいますが(それも匿名性に隠れて)、それを言っちゃあおしまいよ❗️と寅さんが言ってくれるように、歯止めがかかるような社会だといいな、と私も思います。