「ゾンビが出てこない『ランド・オブ・ザ・デッド』」パラサイト 半地下の家族 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビが出てこない『ランド・オブ・ザ・デッド』
半地下のアパートに暮らすキム一家は全員無職の極貧家族。長男のギウは親友から女子高生ダヘの家庭教師のバイトを紹介されて勇んで面接に出かけると、そこはIT企業の創業社長パク氏の豪邸。ダヘの弟ダソンがデタラメな絵を描くことを知ったギウの脳裏にある計画が思い浮かぶ・・・からの奇想天外なブラックコメディ。
パルムドール受賞も納得の圧倒的な風格を持った作品。先行上映ということで映画が始まる前にポン・ジュノ監督や出演者の方々がとにかくネタバレだけはやめてくれ的なコメントを入れていましたが、確かに中盤以降の展開は知らないに越したことはないです。そんな意外な展開も納得して受け入れることが出来てしまうのは作品の背後に横たわる絶望的な貧困が全然リアルだから。何気に私は半地下に2年ほど下宿していたことがあるのであくまでギャグとしてブチ込まれる極貧あるあるの凶暴さに身の毛がよだちました。鳥肌立てながら笑うというのは生まれて初めてかも。
『万引き家族』、『永遠の門 ゴッホの見た未来』、『グリーンブック』、『存在のない子供たち』、『ある女流作家の罪と罰』、『ビール・ストリートの恋人たち』、『ROMA/ローマ』・・・昨今の賞レースを賑わせた作品群が挙って貧困をリアルに描いていますが、この傾向はすなわち世界中で貧富の差がシャレになっていないということを表しているわけで、そんな作品をスノッブの牙城であるミッドタウン日比谷のプレミアムスクリーンでかける、どんだけ皮肉やねんと目眩がしました。あえて例えるならば全然作風は違いますが、まるでゾンビが出てこない『ランド・オブ・ザ・デッド』。それくらいスクリーンから投げつけられるメッセージが辛辣でずっしり重いです。
何気に貧富の差のコントラストが鮮やかで物凄く美しいのも本作の特徴。便器から溢れる汚水までが見惚れるくらい美しい。これは撮影監督のホン・ギョンピョの手腕でしょうか。本作、オスカーで結構な数のノミネートがあると思います。さりげなく下ネタもエゲツないので全然デート向きじゃないです。