「【ある映画監督が、深い心身の痛みと憂鬱を乗り越えるきっかけになったモノ】」ペイン・アンド・グローリー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【ある映画監督が、深い心身の痛みと憂鬱を乗り越えるきっかけになったモノ】
-今作品は派手なアクション等は一切ない。老年期に手が係った男の緩やかな魂の再生の物語である。-
■今作品の魅力
・映画監督サルバドールの、現在と少年時代の映像の風合。明るいトーンで描く少年時代と現在の洗練されてはいるが、やや暗めのトーンの違い。
-そして、これがラストシーンに効いて来る。上手いなあ、ペドロ・アルモドバル監督。
・サルバの少年時代のスペインの美しい風景と快活な女性達の姿。とりわけ、ペネロペ・クルスの姿は際立っている。
・と比較して、現在のサルバの裕福だが、精気のない姿。そして、その理由がゆっくりと分かって来る過程の描き方。サルバを演じたアントニオ・パンデラスの沈鬱な表情。背中の手術痕。
・が、ある日サルバの32年前の過去作品が、レストアされ、再上映されるところから物語は動き出す。
かつて、その演技について不仲になり疎遠になっていた主演男優との再会。それが縁でかつて、三年共に暮らした男性との再会・・。
・徐々に、生きる事に前向きになっていくサルバの姿をアントニオ・パンデラスが抑制した演技で魅せる。
・又、少年サルバが文盲だが、絵の得意な職人エドゥアルドに字を教えるシーンからの、50年後エドゥアルドからサルバが”手紙”を受け取り、涙を滲ませながら読むシーン。
ーこのシーンは、ぐっときたなあ・・。-
〈それにしても、あのラストには見事に一本取られた。
今の自分があるのは、
・美しい母や村人達との濃密な関係があったから。
・そして、確執はあったが、かつて一瞬に映画を作った仲間達である
という事をゆっくりと時間をかけて思い出し、もう一度前向きに生きる選択をした男の物語。
ペドロ・アルモドバル監督が創出した50年に亘る豊饒な世界感にじっくりと浸れる作品。〉
■蛇足 睡眠はしっかりとってから、鑑賞する事をお勧めしたい。