「ゾンビ映画に載せたメッセージ」デッド・ドント・ダイ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビ映画に載せたメッセージ
2019年カンヌ国際映画祭オープニング作品。
ジム・ジャームッシュがゾンビ映画...??と観る前は一瞬首を傾げたものの、とてもジャームッシュですね...。
ただ、R15+指定なのでそこそこ描写はエグいところも。ゾンビは大変古典的なゾンビなんだが、ゾンビにやられる側の描写は結構生々しい。
この作品の凄いところはもう最初からアダム・ドライバーが結末を断言しているところである(そしてその理由が示される場面はものすごく笑顔になった)。若干間延びしてはいるがそれなりに感情を見せるビル・マーレイと、真っ当にパニックになるクロエ・セヴィニーに対して、やけに落ち着いてるアダム・ドライバーの理由それかよ!そんなん笑うわ!そしてビル・マーレイの反応も大変よろしい。
本作、多分「普通の」ゾンビ映画を想定して観ると退屈かもしれない。だが、ありとあらゆる大小の仕込みとメッセージに唸らされる作品でもある。世捨て人ボビー=トム・ウェイツの立ち位置とか、ダイナーでスティーブ・ブシェミが吐く台詞へのダニー・グローヴァーの反応とか。人間が引き起こした気候変動とゾンビの関連も含めて、ある意味大変直接的なメッセージ映画でもある。ラストとか完全に社会派メッセージ映画のそれだ。ゾンビ映画なのに!
遊びというか余白という意味では完全に謎なティルダ・スウィントンが最高である。日本刀でゾンビを狩るティルティル....!警察署のパソコンのキーボードの叩き方はちょいとアレだが、最初から最後までなんだか分からんという「謎」としての彼女の見せ場は凄い。しかし字幕で武士口調にする必要があったかは分からない。
ジャームッシュがファンだと述べていたセレーナ・ゴメスの都会っ子感も私は好もしかった。キラーン!というあの輝き...。ベタだがそう見えるセレーナ・ゴメス...。
ストーリーの結末としては殆ど救いがない(警告映画だからそうなるだろう)のだが、とにかく色々な要素を詰め込んで拡張したかったんだな、と感じた。そしてメッセージ性を備えつつ、細かく遊ばせる。それが完璧に成功しているとは言いがたいのだけれども、挑戦的映画だな、と感じた。
トム・ウェイツが拾うメルヴィルの「白鯨」にも何か含意があるんだろうな...。