劇場公開日 2020年10月30日

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「緊張感の途切れない秀作」罪の声 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0緊張感の途切れない秀作

2020年10月31日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

原作は未読である。忘れ難いグリコ森永事件をベースに、その犯人像を想像して話を展開させる手腕には感服した。非常に良くできた話であり、脅迫で持って来させた金の受け渡しに失敗しても、実は他にも金を手に入れる方法があったという点は、見ていて目から鱗だった。いかにも有りがちな話だと思った。犯人たちの目的と動機がバラバラだったというのも頷けるし、金以外の目的で参加した者たちの薄っぺらな正義感と復讐心には心底から憤りを覚えた。50 年以上前の学生運動で革命とかほざいていた連中の思慮の足りなさ、独善性を痛烈に指摘した描き方が痛快であった。

テキストの読み上げ機能など遠い未来の話だった当時、話者特定を困難にすべく、脅迫文の読み上げに3人の子供を使った犯人グループとその協力者は、その子らが後でどんな不幸を引きずるのか、全く理解も想像もしていなかった。その想像力の欠如、我が子を不幸にしてまで、社会に一矢報いたいと語る身の程知らずの行動には、非常に腹が立った。3人のうち、最年少の1人を除き、あまりに悲惨なその後の話は目を覆うばかりであり、胸が痛み、深い同情を禁じ得なかった。

上映中、途切れることのない緊張感は、子役を含む俳優陣の好演の賜物であろう。小栗旬は、原色好きの変な映画監督の太宰役で見て以来だったが、力みのない演技が別人のようで、いかにあの女監督が異常な演技を強いていたかがよく分かった。成人後の聡一郎役の俳優は、特に印象的で、悲嘆に暮れる際の血管を浮き立たせた演技の迫力には度肝を抜かれた。望役の原菜乃華さんの美しさは、物語の痛切さをいや増していた。あと、聡一郎の子役のほうが星野源に似ていたので、やや混乱した。

佐藤直紀の音楽は、登場人物たちの不幸に想いを寄せて寄り添っているようで、非常に好感が持てた。演出は非常に見事で、根っから根性の腐り切った悪人から、インテリを気取っているくせに他人の人生にまで考えが及ばない無自覚な悪人まで、良く描き分けてあった。事実が次々に明らかになる度にカタルシスが落ちる想いをし、それが連打で来るので、大変に見応えがあった。
(映像5+脚本5+役者4+音楽5+演出5)×4= 96 点。

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アラカン