「有終の美?」るろうに剣心 最終章 The Final よっちゃんイカさんの映画レビュー(感想・評価)
有終の美?
ここでは一から十まで人誅編のネタバレをします。
原作既読。大ファン。
大ファンだからこそ今回の宣伝の仕方には不満だった。
人誅編を元にしたfinal
追憶編を元にしたbeginning
そもそも原作では人誅編の中で剣心の過去(即ち追憶編)が語られる。
つまり、本来は人誅編の中に追憶編が内包されていなければならない。
それを分けて、さらには人誅編を最初に持ってくるのは自分としては納得がいかなかった。
過去をしっかりと話し、それに向き合い、その上で倒す。
これが人誅編の大まかな構造だと思うからだ。
ところが、映画を見てみると全くの杞憂に終わった。
きちんと登場人物に向けて自身の過去を剣心が話しているのだ。
その上で、その過去がダイジェスト方式で見せられ、観客はbeginningを見ることで全て補完される。
なので、原作を知らない人はここで置いていかれるであろう。それは少し残念だが、致し方あるまい。
序盤は大まかなところで原作に添いながら進み、途中からオリジナルストーリーに入る。
実写版人誅編は所々原作の勘所を外してはいるが、自分としては最後まで苦にならず見れた。
京都編よりは成功していると思う。
もちろん脚本の矛盾も多い。
鯨波との邂逅もないのに何故自分に向けた人誅だと剣心が気づけたのかとか。
ただ、それをねじ伏せるほどのアクションと演技だった。
ただ、この人誅編で一つ不満に思う展開がある。
それは神谷薫の死が無いこと。
原作では神谷薫が死に(縁側の偽装ではあるが)そのことで剣心が廃人となってしまい、そこから人斬りとしての罪を償う答を見つける。
この答を見つけたことで縁との闘いに打ち勝つことが出来るのだ。
ただ、この薫の死が無いため剣心が人斬りの罪を償う答を見つけないのだ。
更に劇中では「どうすればいいのか拙者にはわからぬ。」とまで言ってしまっている。
この人誅編のテーマは“復讐”だけでは無い。
剣心側の“贖罪”というテーマもあるのだ。
この贖罪というテーマが実写版ではすっぽり抜け落ちていてそこが大いに不満。
薫が死なないにしても答を見つける、もしくは答を口にする。
これくらいはしてほしかった。(るろうにしている間に答を見つけていたという解釈にしろ)
原作では薫の死に様が実に美しく描かれているだけ(そのコマはいまだに目に焼き付いてる)に残念。
以下、各キャラクターの描き方などで思うことをつらつらと書いていく。
緋村剣心
正直言って剣心の優しさが見えない。
弱いものを助ける。
自分が助けたい人を助ける。
それだけ。
原作の剣心は敵にも情けをかけるのだ。
だが、この映画の鯨波、乙羽、縁、に至るまでどことなく突き放しているようなそんな怜悧さがあった。
それもこれも最後の巴の墓参りで「縁は人を殺した罪を償わなくてはいけない。そうしなければ縁の中の巴は笑わない」まで言わせておきながらその後の「でも巴は優しいからきっと見守ってくれる」をカットしたところに全て現れてると思う。
雪代縁
間違いなく今回のMVP。
原作で語られている「深く深く沈んでいくダウナー系の敵キャラ」というのがよく表現されていた。
最後の死闘で感情を爆発させるところなど要所要所で姉への想いが見えて素晴らしかった。
この縁に泣いた。
アクションも縁らしい“しなやかな肉体”を使ったいかにも“大陸”っぽい動きで素晴らしい。
つけもつけたり、動きも動いたり。
第一作第二作ともに剣心がこの作品のアクションを引っ張ってきた感があったが、今作に限っては縁のアクションがかなり印象に残った。
特に序盤の列車での大立ち回り。
多くの警察官を相手にまるで揶揄うようなアクションが素晴らしかった。
加えて、東京焼き討ち。
原作では実行に移されなかった計画を実行させた事で、剣心1人の復讐の為に平然と多くの人々を殺す異常性が見えて原作よりも狂人のレベルが上がっていて上出来。
この縁の描き方が1番素晴らしかった。
巻町操
今回大満足のキャラクター。
原作でも戦闘シーンが少なく(四神との闘いでさえ出番がなかった)消化不良だったこのキャラクターが実写版で土屋太鳳という好演者を得て供養された。
東京焼き討ちでの蒼紫との共闘も原作ファンとしては胸躍るものだったし、後半の八つ目との戦いも大満足。
相楽左之助
今回のかわいそうなキャラクター筆頭。
前川道場には間に合わず、縁には徹底的にボコられ、最後の縁館突入では駆けつけるだけ駆けつけながら主要キャラとの闘い皆無。
もうすこし出番を与えてあげても良かったのでは?
剣心唯一の親友といった感じもなくて残念。
斎藤一
まずまず。
原作でのカッコ良さが第一作からずっと変わらず出ていて監督は斎藤一が一番好きなんだろうなぁとさえ思った。
特に今回も斎藤一が出てくる序盤の掴みが最高。
明神弥彦
原作では大活躍だった弥彦もこの映画では一つも活躍せず。
まぁこれはしょうがない。
子役にあそこまでのアクションは無理なのだから。
ただ、中途半端に弥彦が強くなりたい的な感情を描いていたのはあまりにもおざなりすぎないか?
話を進めるために必要だから触れた感が丸見え
前川宮内・署長
2人とも原作とは微妙に違うものの実写なりの署長と前川先生で素晴らしかったと思う。
縁の同志
正直言って浮いていた。
原作ではそこまで違和感なかった乙羽も番神も八つ目も浮きまくり。
ここは逆に忠実でなくてもよかったのでは。
乙羽の最期もなかなか消化不良ではあるし。
鯨波兵庫
彼が一番救われない。
死に場所を奪われたのみならず、この時代に生きる覚悟をする尺まで奪われたのだからいたたまれない。
せめてもう少し救いの手を差し伸べてほしかった。
蒼紫
今作でも不憫な役回りは変わらず。
操との共闘シーンは良かったもののその後重度の怪我をおい退場。
最後までその生死は明かされないという。
監督は蒼紫が本当に嫌いなのか?と思わざるを得ない改変だった。
演者の罪と役の罪は別だろう。
呉黒星
音尾さんの演技が素晴らしかった。
四神まで実写化されていたのは笑った。
宗次郎
これは驚いた。
まさかまた登場するとは。
前作の最後の闘いが消化不良だったからここで決着をつけさせるのかと思ったらしっかり剣心の味方で残念な気持ち半分。
ただ、この宗次郎との共闘は予想外で胸が熱くなった。
蒼紫・操ペアといい剣心・宗次郎ペアといい、原作ファンのツボを分かった共闘相手だなと思った。
刀狩の張
最早原作の張では無い。
この張は見た目から内面からキャラクター造形がイマイチだったかと。
後、違うのは巴の日記が出てくるタイミング。
だが、今回の脚色だとタイミングが違っていてもそこまで気にはならなかった。
【追記】
ラストの縁対剣心で剣心の逆刃刀の刃が剣心を苦しめる殺陣が一作目の実写版オリジナルの名台詞「その刃がやがてお前を苦しめる」という台詞を思い出して素晴らしい場面だった。
観賞後珍しくパンフレットを買ってどういう気持ちで監督が作り替えたのかを読んだ。
結果、薫の死をカットした理由も納得いくものでそこら辺は理解できた。(剣心の答をカットしたのはまだ解せないが)
正直人誅編をエンタメ作品として仕立てよう陰鬱なものにはしたくないというのは納得できないものではあった・・が一作目・二作目と重ねてきた実写版るろ剣の特色はエンタメ性にあったのかなぁと思ったり。
とにかくbeginningはしっとりと重厚にゆっくりと描かれそうでbeginning公開が待ち遠しい。
【追記】※以下はbeginningのネタバレも含まれます
beginningを見た後にfinalを見てみた。
この2作を続けて見るとまた新たなことに気づかされる。
それは剣心の罪を償う答に関することだ。
原作での剣心の答は「剣と心を賭してこの闘いの人生を完遂する」ことであった。
この闘いの人生を完遂するということはbeginningの終盤巴と暮らした住処に火を放ち出て行った時点で覚悟していたのではないだろうか。
そんなふうに思えるbeginningの演技であった。
だからこそ改めて明言する必要はないと監督は思ったのかもしれない。
しかし、明言してほしかったと僕は今でも思っている。
思ってはいるがこの作品の贖罪というテーマにどんな答を出していたのかを感じれて良かった。
やはり、2作続けて見るべき。
あと、公開順は明らかに逆な気もする