劇場公開日 2020年1月24日

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「震災からもうすぐ10年。その日本から、ついにそしてようやく発信する。世界中のありとあらゆる傷心の人々へ捧げる歴史的名作です。」風の電話 Ao neonさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0震災からもうすぐ10年。その日本から、ついにそしてようやく発信する。世界中のありとあらゆる傷心の人々へ捧げる歴史的名作です。

2020年1月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これからも世界中に起こるであろう天災と、そこに立ちすくむしかない自然の一部としての私たち、人間。
そして、復興。
それは、現実に家族や住む場所を失ったり追われたものが、簡単に発することのできるような言葉ではありません。むしろ客観的なよそよそしささえ想起させます。失ったという事実はもう取り返しがつかないのであり、そこにあるのは復興などではなく、あきらめとその先にある昇華でしかないからです。
どう乗り越えるか。それだけが事実です。
その意味で、劇中の少女は、そのことを意図せずに、乗り越えよう乗り越えようとして、故郷の現状を確かめずにいられなかったのだと思います。家族の不在も含めて。家族の不在と故郷の消滅を、確かめたかったのだと思います。自分の目と心で。それは、決して後ろ向きの旅ではなく、まさに成長と進化への道程です。
ひとしきり泣いてどうしようもない悲しみを噴き出すことを自分に許した後、湧き上がってきた生きることへの希望と決意。静かではあるけれど、ささやかな自虐の笑みまで湧き起こせる力さえ自身の中に感じます。それこそが乗り越えた瞬間なのかもしれません。
ラストの10分間はまさにその体験を、少女と共にすることになります。モトーラさんは、恐らく演技ということを忘れ、劇中のハル自身になっていたことを確信します。演技という世界があるならば、これ以上の演技と表現が、存在するでしょうか。
もはや「鑑賞」などではない。傷つき閉ざされた心が、そして魂が、昇華されていく。その瞬間をモトーラさんや他の役者さんを通して「体験」する映画です。

震災後10年。自然の驚異と戦い続け、そして共生を模索するこの日本から、ついにこれだけの発信をすることができたことに、同じ日本人として誇らしさまで感じます。制作に携わった皆さん、ありがとうございました。

Ao neon
グレシャムの法則さんのコメント
2020年1月26日

数えきれないほどたくさんの〝想い〟が憑依したとしか思えないラスト10分でした。
その想いひとつひとつについて想像する時間さえ許されないほどスピードや効率や目に見える結果ばかりが優先されるのが趨勢の世の中になりつつあることに、なんともいえないやりきれなさを感じてます。

グレシャムの法則