劇場公開日 2021年2月26日

  • 予告編を見る

「こういう映画が観たかった!!/世界は別でも・・」あのこは貴族 CBさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0こういう映画が観たかった!!/世界は別でも・・

2021年3月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2021/3/20 「やはりいい映画だったなあ」 と思い、あらためて一からレビューを書きます。

タイトル : 世界は別でも・・

上流階級の華子が、幸一郎と出会い結婚する。その途中で、大学時代から彼とつきあいがある美紀を知る話。ふたりの暮らす階層はまったく異なるが、それぞれの道を進む中で、ふたりはわずかに接点をもつ。そういう話。

自分は、岨手(そで)監督の作ったこの映画に、みごとにはまった。こういう映画が観たかった!! 別々の世界を観せるからこそ、どちらの世界でも "相似" であるものがきわ立つ。この映画では、二つの "相似" であるものを観せてくれることで、「大切なことは、どんな世界でも共通なんだよ」ということを教えてくれる映画。
大好き!!

主人公の一方である美紀は、猛勉強して入った慶応大学を、家庭の経済事情で中退せざるをえなくなる。ただし、そのことは悲劇として描かれるのでなく、あくまでもひとつの "環境" として描かれる。同様に、華子が、裕福な家に生まれ育ったことも、よしあしでなく、ひとつの "環境" として描かれる。
二人が育ったのは正反対の環境だが、"自分で決めることが大切" という点は共通だとこの映画は伝えてくる。「大切」と書いたが「気持ちよい」かもしれない。

また、"友情が、人生を一歩踏み出す力となること" も、正反対の環境でも共通だと、この映画は伝えてくる。どっちの世界でも相似なんだよ、と伝えてくる。

このふたつの事実が、作品を観ている俺たちの心に、静かに淡々と伝えられる。

それらを際立たせているのは、美紀、華子のそれぞれと、幸一郎との関係。幸一郎に、かたや "便利な友達" として扱われる美紀、かたや ”正式な結婚相手” として扱われる華子。180° 異なるその立場も、この映画では、主人公ふたりに与えられた "環境" として、これもまた、淡々と描かれる。

映画は、その "環境" を二人が悲しんだり喜んだりすることにはほとんど焦点をあてない。与えられたそれぞれの "環境" の中で、主人公それぞれが、"自分で決めて行動すること" の大切さに気づいていく姿が描かれる。決める主役は、あくまで自分(美紀、華子)であって、相手(幸一郎)ではないのだ。

だからであろうか。自分(美紀、華子)のそれぞれの決心の後の、相手(幸一郎)の心情や行動は、そっけないくらい簡潔にしか描かれない。そして幸一郎の心情や行動が全く描かれないことによって、この映画の主役は、決心し行動する華子や美紀であることが明確になる。

「"環境" が異なること自体は受け入れるだけのもので、嘆いたり喜んだりすることではない。大切なことは、"(どんな環境であろうが) 自分で決めて行動すること"」 というメッセージをクリアに示している。どんな環境にいる人でも、共通なことがあり、そのことを通してお互いはわかりあえる。

だから、華子と美紀は、わかりあえる。

そしてもうひとつの "相似"。
どの世界であろうとも、"友情が人生を一歩踏み出す力となる" ということ。美紀は里英と、華子は逸子と、それぞれの友情をもとに、先に向けて踏み出していく。

このふたつの相似が、本作をこんなにも面白く、かつきわめて気持ちのよい作品にしていると思う。

日本は社会性(集団)を重視しがちで、集団の多数と異なる者を、"異物" と見る傾向が強かった。しかし今ようやく、「人はそれぞれであり、自分でない人間を、ひとりの人間としてみることが大切」ということが大切にされ始めたと思う。集団を大切にするか、多数派でない個人を大切にするかというバランスをどこに置くべきか、見直す時に来ていると思う。そのメッセージが、観ているこちらの全身に伝わってくる。

俺は、男だから/女だからとか、ハイクラスだから/庶民だから といった "集団" で括りがちだが、"集団" や "括り" にはそれほど本質的な意味はない。そういうことも、この映画は俺に伝えてくれた。ホントにありがとう。

もう一つ、俺がこの映画を大好きな理由がある。
美紀、華子と幸一郎の関係だ。この映画では主人公がたまたま女性で、相手がたまたま男性なだけ。それが逆でも、まったく同じ映画が撮れるということを気づかせてくれる。そして、これまでは逆の映画、男性が主人公の映画が圧倒的に多かったよね、ということに気づかせてくれる点だ。

「友情に後押しされて一歩踏み出す話」は、男性が主役の映画に多かったように、俺は感じる。だが、本作は、女性を主役として当たり前のようにそれを描いている。そしてそう描くことに、気負いもなく当たり前に描いている。
そう、ほとんどのバイアスは、観ているこちら側にあるんだ。こういう話は男性っぽいね、と観ている俺が、勝手に思い込んでいるだけなんだ。そういうことをも気づかせてくれたこの映画は、自分にとって、大好きな映画です!!!!!!!

「多様性」 って、こういうことなのか。人はみな、それぞれ、なんだね。
ありがとうございました。

--- 以下が、最初に書いたレビューです ---

今週は、ちょっと期待していた 「あの頃」 も 「ファーストラブ」 もなんだか自分にははまらなくて、時間を工面したのにとても残念な気持ちでいた。そんな中で、やりました! 俺、こういう映画が観たかったんだ!! と、めちゃくちゃ充実!

上流階級の華子が、好きな人幸一郎と出会い結婚する。その途中で、彼とつきあいがある美紀がからむ話。

俺は本作のあらすじを読んだ際に、"「女の敵は女」 みたいに、異なる立場の女性同士が対立する話" なのかなと感じていた。しかし、違った。俺のこの先入観は、そのまま、映画.comの "門脇麦&水原希子インタビュー" にある「ステレオタイプな見方」だった。そして、本作はそれを完全に覆している。ステレオタイプな先入観を持って臨んだ自分を、心から恥じる。(このインタビューも、是非読んでほしいです)

そう、この映画は、出会いと友情、そして成長の物語。そして、登場人物がたまたま女性だということ。そんな映画がたくさんあってもおかしくないのに、あまり記憶にない。このことが、自分はもとより、日本ではまだまだ男女に対して公平な見方が行われていないということを、俺に痛感させる。そして、この映画が、そういう意味での公平な映画であることも、また痛感した。

みなさんにも堪能してほしいのは、この映画が描く出会いと友情、そして成長。華子と友人の逸子、美紀と友人里映。彼女たちそれぞれの友情と成長が、本作の2本の主旋律だ。

それに加えて、機会は少ないが、華子と美紀の出会いとふれあい。さらに華子と美紀の決断。別々の主旋律どうしが、瞬間ふれあい、混じり合う瞬間が描かれる。そこで、観ている俺たちは、「離れた世界でも相似形がある」ことを俺たちに気づかせてくれる。
二人の出会いと触れ合いは、決してエンタメ的に描かれるのではなく、淡々と、ほんとうに淡々と描かれるのですが、きっと楽しんでもらえると思います。

本作を観たみなさんにぜひ読んでほしいのは、映画.comにある門脇麦&水原希子インタビュー。作品では華子にいまひとつ思い入れできなかった人も、これを読めばあらためて華子を振り返ることができると思います。

もともと、「太陽」 以来、全幅の信頼をおいている門脇さんに、高良さんという布陣は万全にみえたし、水原さんは女優としてはどうなんだろうと思いましたが、それもまったくの杞憂でした。水原さん、心配なんかしてごめんなさい。抑えに抑えた門脇さんの演技も、素直に表現してくる水原さんの演技も、すばらしかった。そして、主人公でないことを見事に表現した高良さんも、その面で凄かった。いやあ、楽しめました。

ラストの選曲、すばらしいです。素晴らしいと思ったら、合奏演奏は音楽家たちなんですね。よきかな。

おまけ1
配給会社は東京テアトル。今年は 「花束みたいな恋をした」といい、本作といい、大当たりの年ですね。

おまけ2
自分は、「家」という概念は消えゆくべきものと思っている。その思いに変わりはないが、本作をみて、上流階級における 「家」 という概念は、自分が思うよりもはるかに深くて重いと知り、時間はかかるのだな、と感じた。華子の周囲のセリフ。
・ 映画やTVには出てこない文化もあるの。
・ 政治家の家に生まれた子は太郎とか一郎とか、誰でも書ける名前をつけると聞くわ。
・ 東京は、違う階層の人と出会わないようになっているんだ。
・ あなたのことは、こっちで調べさせてもらいました。
居酒屋のシーンは、上流階級のメンバーが、一気に庶民世界に飛び込むのは、ちょっと無理でした、というもの。庶民の俺たちが、こんなこととは気づかずに上流階級の友人に同じようなことをしたことがあったのかもしれないと思うと、きついね。

美紀 「そっちの世界と、うちの田舎って、なんだか似ているね」・・・最上位と最下位は似る?

2021/3/15 追記

「男性は」「女性は」で始まる文章は、多くの場合、思い込みの文章であることが多く、たいした意味がないと感じさせてくれた映画でした。そんな括った主語ではなく、「俺は」で語り、「あなたは」で聞く。カテゴライズせずに、個と個で考え、対話する。そうすることが、今を生きる俺たちには最も必要なことなんだよ、と、楽しく教えられました。ありがとう、この映画!

映画.com の解説にある言葉、「ふたりが火花を散らすような展開になっていないということが秀逸で」。ホント、その通りだよね。そういう展開を当たり前のように先入観を持って入場した自分を恥じるよ。レビュー冒頭の繰り返しだけど、大切なことだから二度言いました。

ここまで。

CB
山のトンネルさんのコメント
2024年7月11日

与えられたそれぞれの"環境"の中で、主人公それぞれが、“自分で決めて行動するこどの大切さ。そして、主人公二人の友情として描ききった点が本当に良いなと思いました。

山のトンネル
marimariパパさんのコメント
2023年7月2日

共感&コメントありがとうございます。素敵な作品を語りあえるこの場所がいいですね。

marimariパパ
CBさんのコメント
2023年1月6日

そう言ってもらえると、とても嬉しいです。

CB
琥珀糖さんのコメント
2023年1月5日

CBさん
コメントありがとうございます。
今、麦さんと希子さんのインタビューを読んできました。
固定観念に縛られないで、自然にありのままで生きる。
それを実行している美紀。
そして自由を選択した華子。2人には友情みたいな空気が生まれましたね。
だけど、私は、この人とは生まれや育ちが違うから、
初めから見ないようにしよう・・・とかスルーしてる部分が多くて、
私こそ固定観念に縛られてます。
と、気付きました。

本当に肩肘張らず、軽くて心地いい、有りそうで何処にもない、
素敵な映画ですね。
インタビュー教えて頂きありがとうございました。
読んで良かったです。

琥珀糖
もーさんさんのコメント
2022年6月1日

すみません。『星の子』のレビューに対して頂いたコメントへのお礼でした。最近寄る年波で記憶力の低下が激しく大変失礼しました。ただ、CBさんのレビューは大変面白いですね。いくつか興味深く読ませて頂きました。ではまたよろしくお願いします。

もーさん
もーさんさんのコメント
2022年6月1日

CBさん、はじめまして。もーさんと申します。私の拙いレビューに対して暖かいコメントを頂き有り難うございました。お礼が大変遅くなって申し訳ありません。何せ物凄くIT・SNS苦手なものなので自分のレビュー欄からは返信出来ず、コメントを頂いた方のレビュー欄からしか返信出来ないこと、つい最近分かりました(ずっとアプリのせいか自分のスマホがおかしいのかと思ってました)。もうお忘れかとは思いますし、大変時間が経ってからの返信なのでご無礼かと思いましたが、一言お礼を申し上げたく返信を差し上げました。有り難うございました。

もーさん
こころさんのコメント
2021年7月2日

CBさん
この作品の様々なシーンと柔らかな空気感を思い出しました。
CBさんの書いていらっしゃる「描かれないことで…明確になる」なるほど🤔でした。

こころ
しろくろぱんださんのコメント
2021年3月30日

私もこの作品は俳優さんの魅力がそれぞれ輝いて見えました。初め上流階級の人たちはその中で生きていくのがいいと思いました。幸せだと。でも美紀と出会って普通のところの世界で自分らしく生きている。責任を伴うけど。でも。夫役の高良も優しい人だと思います。ただ家柄に縛られている世界だから…。その縛りがなかったらまた違う展開になっのかなとも思いました。

しろくろぱんだ
グレシャムの法則さんのコメント
2021年3月13日

コメントありがとうございます。
〝逸子の象徴するもの〟
人によって色々な感じ方があると思いますが、私の場合、一番芯だと思う部分はフェアネスな精神です。
その人が自分のフィールドで表現してるものをそのまま受け止める公正な精神とでもいうものです。

グレシャムの法則
masamiさんのコメント
2021年3月13日

CB様、いつもありがとうございます😸
女同士のバトルっていうのがステレオタイプなんすね。私も反省しました。松濤も富山も村社会。門脇さんの最後の表情も良かったです。

masami
2021年3月13日

共感とコメントありがとうございました😊自分も、淡々とした空気感にハマりました。全ての登場人物が、物語の世界の中で生きていて、素敵な映画だったと思います😭

中ちゃん