「ハイカロリー ハイヘビー」ザ・レセプショニスト いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
ハイカロリー ハイヘビー
“重い”という英単語を全て煮染めたような大変重厚な内容である。それはヘビーであり、シリアスであり、シビアである。移民の問題、格差社会、性差別、搾取、略奪、タコ部屋、底辺、およそ、この地球のありとあらゆる苦しみ苦みを抽出したような、この世に神も仏もない、でもあるとすればそれは生まれ育った母国、土地なのかもしれないという結びに落とすテーマであろうか。残念ながら未読だが、劇中に提示される重要なプロップであるミラン・クンデラ著『存在の耐えられない軽さ』がこの作品のキモなのであろう。粗筋等を調べると、やはり『母国を捨てる』ことでの様々な心の有り様を表現しているようで、かなりの難書らしいが、今作を紐解く上で大変大事なのだと感じる。
映像自体は昔の邦画のようなザラついた印象を持った。イギリスなのだが、画面全体が灰色がかった色彩設計を覚える。勿論、ロンドンは曇りが多いというのは周知だが、それにしても屋内の映像までグレーの印象を抱くのは、今作品を表わしている特徴かと思う。冒頭から主人公が水辺の草原で、背丈以上の草をかき分けながら何かを探すシーンからスタートする。これは後ろの方で判明するのだが夢の中、つまり今の現状の抽象表現ということである。若者の就職難が壊滅的状況に陥ってる状況で、ましてや他国、それもアジア人である台湾出身の主人公が職などありつける筈もなく、その人種差別がベースでの、一軒家の売春宿を紹介され受付兼小間使いの仕事を始める。今まで表の世界しか観ていなかった主人公が、ここで始めてイギリスの裏の顔を体験することになる。宿主である業突くババァ、ベテラン姉さん、若いノー天気な娘という、或る意味粒立ったキャラクターに加え、ババァのツバメや、裏の世界の顔役等々がそれぞれ個性の濃さを発揮しながら物語をブン回す。思い出すのが日本のドラマ『北の国から』。あの世界観が妙に懐かしく、そして痛い程心のキツいところを刺してくる感覚に陥るのは共通なのだ。そういえばお金を盗むのも同じような展開があったような。夢破れて異国で命が尽きる人もいる、そして運良く母国に帰れる人もいる。そんな人々の苦み走った運命を重厚に見せてくれる今作品は、今の世界の脆弱さ、そして力強さの両方を表現されいた良作である。「ミミズは長いこと外にいると死んじゃう」。なんて悲しい台詞なのだろう…。