「キャスト陣の演技が素晴らしい」さくら orafuさんの映画レビュー(感想・評価)
キャスト陣の演技が素晴らしい
原作既読。制作が発表された頃からずっと楽しみにしてきた。もちろん、原作の方がより詳しく描かれているので感動は大きいが、映画も映画ならではの良さがたくさんあって期待以上だった。ただ西加奈子さんの小説特有の比喩を映画では表現できないこと(仕方ないことだと思いますが)と、エピソードを詰め込み過ぎた感が否めないのが少し残念だった。
この作品は、3きょうだいの約10年の変遷を次男の薫目線で、アルバムをめくっていくような感じで進んでいく。主人公は薫であり、薫の視点で描かれている。薫は才能あふれる兄と妹に挟まれて、自分の凡庸さに悩みながらも、家族の接着剤的な役割の青年で、この映画のタイトルにもなっている一家をいつでも見守る愛犬の「さくら」と重なる部分があり、彼のあたたかなナレーションで物語が進行していくことはとても「さくら」らしいなと感じた(犬は流石に喋ることはできないから薫が代弁しているのではないかと錯覚する)。
あくまで薫が主人公であるが、物語が大きく動くきっかけとなるのは美貴と一であり、3人それぞれとても難役で体力の必要な役柄だったと思うが、全員素晴らしい演技だった。
北村匠海さんは、中盤までは受けの演技が中心だったが、お葬式での憎しみの目のリアリティが素晴らしくて、薫というクールに見えつつも実は1番内面に抱えているものが多いであろう青年を、スクリーン上に確立していてさすがだなと思った。静かな役で印象に残る演技をすることはとても難しいと思うが、彼の演技はしっかり爪痕を残しているし、彼でなければここまであたたかい作品にならなかったと思う。
小松菜奈さんは、角度によって全然違う風に見える、ある意味宝石みたいな少女を力一杯演じていた。ある時はわがままで、ある時は1番冷静で、ある時は不敵な笑みを浮かべるという、どれが本当の美貴なんだろうかと思わせる不思議なキャラクターをあそこまで表現できるのは彼女しかいないのでは。少し関西弁に違和感があるのも、変わった美貴らしくて良かった。特に、父親に「あのランドセルは捨てたぞ」と言われた時の表情が素晴らしい。(確か原作では、ずっと一緒に寝ていたぬいぐるみを手放す時の女の子みたいな顔、という表現だったと思う)
吉沢亮さんは、なんといっても芸達者。中盤までの爽やかで素直、かつ優しいという完璧な青年から一転、絶望の淵に立たされてどんどん転落していく様を演じるという、高い演技力が必要な役を難なくこなしている。特に、夕飯中に家族に八つ当たりするシーンや、「神様とのキャッチボール」の話をするシーンでの彼の手の動きによって、一の苛立ちや怒りが手に取るように伝わってきた。こんな細かい仕草まで気を配れる俳優はなかなかいないと思う。彼があまりにも自然に、半身不随となった青年を演じるものだから、何も考えずに映画を観ていたが、もちろん吉沢さん自身は足も普通に動かせるわけで、そう思うと、この役を演じるにあたってインタビュー等で本人は何も語らないけれど、かなりの努力をされたんだろうなと思い感服した。出番は他の2人と比べると少ないが、間違いなく彼の存在でこの作品は成り立っていると思う。
少し癖の強い変わった作品だから、好き嫌いが分かれるかもしれないが、間違いなく心にぶっ刺さる人もたくさんいるはずだし、そういう人が1人でもいる限りこの作品は映画化した意味があると思う。私は、最後の「あなたの愛は、私を高みに連れて行ってくれる」という言葉がこの作品の全てを表しているようで、大好きだ。