「どこにも着地はしなくても」ひとよ 桜場七生さんの映画レビュー(感想・評価)
どこにも着地はしなくても
本当はどうすれば良かったのか?
暴力を振るう夫を殺したことが正しい選択だったのか?
その後、子供たちが周りからのバッシングに耐え、しょうがなく、と言うように選んだ道は正しかったのか?
何が正しいのか、明らかにされないまま映画は続いていく。それはそうなんだろう。こんな状況の中では「これです!」なんて正しさもあるはずもない。
その中で段々と周囲の人々の状態も不穏に悪化していく。その行き着く先が運ぶ、あべこべな対話と言えない対話。
最初、あの対話の部分がこの映画の肝なのかと思った。でも、そうだとするなら、何か、分からなくもないけど頑張って涙を誘っているようにも見えるし、頑張って「親とは!」「子とは!」と描いているようにも思えて、ちょっとなあ…と思ってしまったのだけれど。
でも、本当に素晴らしいシーンはその後にあった。
娘の松岡茉優に髪を切られるのを待つ田中裕子。
その田中裕子が見上げる空。
母親として、人間として取り返しがつかないことをした。それでも、これから娘に髪を切ってもらう、と言う時間が彼女には残されている。
そして、散々と嫌な思い出も、子供たちと過ごした良い思い出も混じりあった家の庭の中で。
見上げた晴れた空に雲が流れる。その美しさに感動している彼女に何が正しいのか、何が間違っているのか、とかそんなことはどうでも良い。
そこには何も諦めていない、ただの人の姿があった。
あの姿を子供たちに見せることが出来たことが一番の母親としての役割だったんじゃないだろうか。
あの後どうなるかは分からない。でももう、何に対しても「しょうがなかった」とは登場人物の誰も言わないんじゃないか。それが、一番のグッドエンドなのでは。