劇場公開日 2021年1月22日

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「2時間の大河小説」どん底作家の人生に幸あれ! 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.52時間の大河小説

2021年1月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 デブ・パテルはロボットSF映画「チャッピー」で初めて見た。クソ真面目で一途な開発者を演じて笑わせてくれたが、本作品でも同じようにクソ真面目で一途な青年デイヴィッド・コパフィールドを好演。顔を見れば明らかなように、インド系の俳優である。
 本作品がユニークな点は、親子の人種が異なる点だ。主人公デイヴィッドの母親は白人のクララ・コパフィールドであり、白人貴族の家柄でデイヴィッドの友人スティアフォースの母親の役は黒人女優が務める。デイヴィッドの大叔母ベッツィの資産管理人である白人男性ウィックフィールド弁護士の娘アグネスは黒人である。最初は違和感があったが、そういう設定なのだと了解してからは普通に鑑賞できた。かなり新しい試みで、これからは人種を気にしないキャスティングが主流になるかもしれない。とてもいいことだと思う。
 もうひとつの工夫は、デイヴィッドの母親クララとデイヴィッドの妻ドーラを、モーフィッド・クラークが一人二役で演じていることである。ドーラ・スペンロウの登場シーンを見たときには、あれ?デイヴィッドの母親?と思った。幼い頃に引き離された母親の面影を、デイヴィッドはずっと忘れずにいた訳で、一目惚れするのも当然の話である。なかなか洒落た設定だ。
 本作品は明治の文豪が書きそうな波乱万丈のストーリーを2時間に凝縮したような映画で、行間を読み取っていかないとピンとこない印象になってしまう。チャールズ・ディケンズのことをよく知っているイギリス人向けの作品だと思う。日本で言えば、夏目漱石の半生を描いたような映画で、かなり省略しても日本人なら多くの人が理解できるはずだ。
 夏目漱石と言えば、イギリス留学時にディケンズの作品を読み漁ったと言われているから、時間と空間の広がりの大きなディケンズの物語に影響されたに違いない。本作品を観て、漱石の「行人」や「こころ」に雰囲気が似ていると思った人もいると思う。
 鑑賞後に、原作であるディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」を読むといいと思う。読みながら映画のシーンが蘇ってくるはずで、本作品をもう一度楽しめると思う。2時間の大河小説といった感じの傑作である。

耶馬英彦