「『もののけ姫』の作画監督による、『もののけ姫』っぽい映画。 優秀な漕ぎ手を集めても、船頭が未熟では…。」鹿の王 ユナと約束の旅 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
『もののけ姫』の作画監督による、『もののけ姫』っぽい映画。 優秀な漕ぎ手を集めても、船頭が未熟では…。
謎の病「黒狼熱(ミッツァル)」が猛威を振る中、その抗体を持つ戦士ヴァンが、ツオル帝国とアカファ王国の政争に巻き込まれてゆく、というファンタジー・アニメ。
主人公ヴァンの声を演じるのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『海街diary』の堤真一。
「黒狼熱」の治療法を探す医師ホッサルの声を演じるのは、『帝一の國』『センセイ君主』の竹内涼真。
安藤雅司さん、こりゃダメだぁ…。全っ然面白くねぇ…。
安藤雅司と言えば、アニメファンならその名前を知らぬ者は居ないという程のレジェンド・アニメーター。
『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『君の名は』の作画監督を務めた、名実ともに日本最高のアニメーターの一人。
本作はそんな安藤さんの監督デビュー作品であり、個人的には結構注目していたのだけど…。
共同監督である宮地昌幸さん、脚本の岸本卓さんもジブリ出身者。完全にポスト・ジブリ的な座組みで作られた本作には、とにかくレジェンドなアニメーターが参加している。
ちらっとスタッフロールを見てみただけでも、井上俊之さん(『電脳コイル』)、西尾鉄也さん(『NARUTO』)、黄瀬和哉さん(『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』)と言った名前が見て取れた。
本作に参加しているアニメーターが、日本アニメ界…というか日本エンタメ界の基盤を支えていると言っても過言ではない。
ちなみに本作の作画監督/キャラクターデザインも安藤雅司監督が担当。キャラの顔がほとんど『NARUTO』だったので、絶対西尾さんがキャラデザ担当だと思っていたけど当てが外れちゃった…😅
まぁそんなわけで、アニメ界の怪物たちが手掛けたアニメーションなので、その作画レベルは桁違い。
流石はリアリズムに定評のある安藤雅司監督、キャラクターの重心移動がめちゃくちゃリアル!身振り手振りも含め、人間のキャラクターたちはまるでロトスコープしたかのようなリアルさとヌルヌル加減である。
さらに、鹿や馬、狼などの四足獣の動きもなんともリアル。動物の動きを上手くアニメーションにするのはすげ〜大変らしいっすよ。
とんでもない時間と労力が掛けられていることは、素人目にもはっきりとわかる。アニメーターを志している人にとっては見どころ満載な作品なのかも知れない。
…ただ、その作画レベルが作品の面白さに直結していない。
あまりにリアルすぎるキャラの動きは、ファンタジーである本作と食い合わせが悪い。
多少デフォルメされているくらいの、オーバーで活力溢れるアニメーションの方がやっぱりファンタジーアニメ向きなんだと思う。
高畑勲のヒューマニズム作品のような動きで、宮崎駿チックなファンタジーを描いてもダメだというのがよく分かった。
まぁとはいえ、作風が世界観に合っていないというのは些細な問題なのです。
とにかくこの作品、お話がおもんなさすぎる💢
本作はチンタラチンタラ旅するオッサンたちのキャンプを見させられ続ける、訳の分からんロードムービーである。
主人公が歴戦の戦士なのに、ガチでバトルする描写が一つもないというのはどういうこと?
結局ファンタジー・アニメの面白さ=バトル&アクションの面白さ。
原作は未読なので、この映画がどれだけ原作に忠実なのかはわからない。ただ、この作品の地味さが原作を忠実に再現した結果なのであるならば、原作を大幅に改変することになるとしてももっとバトルやアクションシーンを増やさないと。
鹿や馬に乗ったり、薪を集めて火を起こしたり、温泉に浸かったりしたところでファンタジーアニメは面白くならないから!
「どっかく」とか「つおる」とか「あかふぁ」とか「みっつぁる」とか「ひうま」とか「ぴゅいか」とか「ぎょくがんらいほう」とかとかとか…。
専門用語多すぎて、全く物語が頭に入ってこんわいっ!
こんな専門用語の嵐にあったのは「FF13」以来。
小説なら前に戻って読み返せるから良いんだけど、一方方向にしか進めない映画というメディアではこの専門用語の嵐は致命的。もう少しなんとかならんかったのか。
なんだよピュイカって。「鹿」って言え「鹿」って。
抗体を持つヴァン、ツオルを滅ぼす為にヴァンを殺そうとするサエ、治療法を発見するためにはヴァンを殺させる訳にはいかないキッホル。
この3人の関係はまるで蛇と蛙とナメクジの三すくみのよう。こんなにバラバラな方向を向いている3人が一緒に旅をすれば絶対に面白くなると思うんだけど、本作は面白くならないんだよなぁ。本当に不思議。
「病気は呪いではない。」
キッホルはこの信念に基づき、黒狼熱の治療法を探す。
たしかにこれはその通りで、現実でもこの考えが医学を発展させて来たんだと思う。
…でも、この世界って普通に魔法みたいなことを使う人がいるんすよね。
現実に近い法則で回っている世界なのか、『ドラクエ』みたいな剣と魔法のファンタジー世界なのか、その辺の事がいまいちよくわからない。
本作のリアリティ・ラインをどこに置いていいのか分からなかった、というのもこの映画にのめり込めなかった理由の一つだと思う。
…あの魔王みたいな木埋まりジジイは一体何なの!?
はっきり言ってしまえば、本作は『もののけ姫』のパチモン。黒いドロドロとかヤックルみたいな鹿とか呪われた片腕とか山犬とか死に至る痣とか足を骨折したオッさんと森で出会うとか、もう既視感バリバリの展開のオンパレード。
そりゃ安藤監督は『もののけ姫』のメインスタッフだったんだから影響を受けていて当たり前だけど、ここまで臆面もなくパクるかね?師匠に対する敬意とか無いのか?
それでいて、作画面でも音響面でも演出面でも、20年以上昔の作品である『もののけ姫』を上回るところが一つもない。
一流の描き手を揃えていても、演出家や脚本家が未熟だと残念な作品になってしまう、という一例として本作は後世まで語り継がれるかも…。
あ、声優は良かったっすよ。特に竹内涼真くんの演技は本職にも全く負けていないし、かなりイケボだった。
良かったのはそのくらいかな。