「自己嫌悪や自信喪失に囚われた人に捧げられたミュージカル映画の、心に響く秀作」ロケットマン Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
自己嫌悪や自信喪失に囚われた人に捧げられたミュージカル映画の、心に響く秀作
エルトン・ジョンの波乱に満ちた半生を描いた伝記ミュージカル映画。音楽の才能に恵まれながら容姿にコンプレックスを抱えて、両親の愛情に飢えた少年期の満たされないこころと、若くして数多くの世界的ヒット曲を生み成功と名誉を得ても、自己のセクシュアリティに悩み愛に彷徨い、破滅していくミュージシャンの赤裸々な姿が、常に絡みつきリンクする。人間形成の率直で正直な嘘のない表現が、巧みに構成されている。リー・ホールの脚本が、その点を深く描き切っているのが見応えあります。ラスト、リハビリテーションで少年レジナルドを青年エルトン自身が抱きしめる、リー・ホールらしい感動的なシーンが、自分を愛することで再起する主題を映画的に見せる。エルトン・ジョンが「リトル・ダンサー」に感動を受けて、後に舞台ミュージカルの楽曲を提供したのが難なく想像できる生い立ちに、驚きを持って納得してしまった。
主演のタロン・エガートンの演技が素晴らしい。メーキャップや外見のなり切り含め感情の浮き沈みを丁寧に演じている。盟友の作詞家バーニー・トーピンのジェイミー・ベルの抑えた演技が、出しゃばらず主役を支える。最悪の嫌われ役ジョン・リードのリチャード・マッデンも悪くはない。どちらも自己中心的で、我儘な母役のブライス・ダラス・ハワードと冷徹な父役スティーヴン・マッキントッシュも手堅い演技だ。
演出で面白かったのが、王立音楽院でのモーツァルトのピアノ曲を弾く二つの場面が、簡潔にして的確な表現であったこと。一つは、レジナルド少年の神童ぶりで、もう一つはピアノタッチがクラシック的ではないのを怪訝そうに見つめる教師のカットを挿むところがいい。
色んな映画を観て来てある程度の予想を立てて作品を鑑賞するのだが、これは期待を上回りました。ケン・ラッセルの「トミー」に出演していたロック・シンガーのエルトン・ジョン、唯一「ビリーエリオット」のミュージカルで感銘を受けただけの寡聞にして、天才ゆえに富と名声を得ながら、音楽ビジネスに振り回されてどん底を経験し、それでも再び立ち上がる人間力に感銘を受けました。自己嫌悪や自信喪失に囚われた人に捧げられるミュージカル映画の、こころに響く秀作。