「輝ける業績ではなく、立ち直る決意を讃える映画」ロケットマン LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
輝ける業績ではなく、立ち直る決意を讃える映画
公開日に鑑賞しました。
世代ではないので、エルトン・ジョンに対する知識も思い入れもほぼ皆無ですが、とても入り込んで見れました。
同監督のボヘミアン・ラプソディは、最後の7分こそ盛り上がるが、そこに至るまでの伝記部分の踏み込みが甘く、肩透かしを喰らった感がありました。
それに比べ、本作はミュージカル仕立てで飽きにくく、幼少期の不遇が縦糸として貫かれていて、主人公の苦悩が理解しやすいです。
何より、本作が英国スターの輝ける業績ではなく、自身で陥った暗黒から立ち直ろうとした決意を讃えている点が共感しやすいです。
これ以上の感想は長くなるので4つに分けます。
①タロン・エガートンの歌唱力
②少年時代の心の傷
③ボヘミア・ラプソディと比べて
④町山智浩の歌詞解説
①ボヘミア・ラプソディでもQueenの名曲が活かされていたが、本作で特筆すべきは、キャスト自身が歌唱している点。
特に、Eltonを演じるTaron Egertonの歌唱は素晴らしい。
世代じゃない自分には、そっくり度は分からないし、本人もモノマネはしていないそう。
専業歌手に劣らない歌唱力に加えて、の歌い出しが演技の延長として自然で、ミュージカル映画として観ても良質。
②しばしば、少年時代の体験は、成長しても傷として残る。
幼少期に、父にハグすらしてもらえず、母の不貞を目撃する体験は、深い傷になる。
子供としては、実の親が不仲ことも、罵りあう声は耐え難い。
あくまでElton目線の記憶なので、両親にも言い分はあるかもしれない。
それでも、この幼少期の不遇の記憶は、Elton自身が愛されることを渇望し、その欲求に振り回されたてしまったことに、大きな説得力を生んでいる。
愛されるいことへの渇望は、才能を認めてくれ、名曲を生む源泉にもなる相棒バニーに、許されない恋をすることで決定的に。
中盤で、酒とドラッグと商業主義に溺れるようになったのは、お前が俺をおいて女とLAを離れたせいだとなじるシーンも痛々しい。
ゲイを打ち明けようと訪ねた父が、異父母の弟たちには愛を注いでいることを知る場面。
カミングアウトした際に、母から叩きつけられる、お前は一生誰からも愛されないという忌み言葉。
シンガーとしてスターダムを駆け上る一方で、無償の愛を注いでくれる人が身近いないという実感は、追い込まれるのに十分。
③ボヘミア・ラプソディは、大ヒットしたし、後半のliveシーンは応援上映がされるほど評価されました。
フレディの人生についても、結婚した女性を心の底から愛しながらも、ゲイとして葛藤する様は描かれていました。
一方で、タイトルにもなっているボヘミア・ラプソディについては、レコーディングやリリースの過程こそ描かれいるが、歌詞に込めた思いなどには全く触れられませんでした。
フレディ自身が詳細に語っていないので、決定版の解釈はないのかもしれないので、フィクションでも構わないから、歌詞と人生をからめたストーリー展開をしてほしかったです。
そういう意味で、後半7分を除くと凡庸な作品でした。
それに対しロケットマンは、愛されたいという欲求に苦しめられるロックスターの再生という縦軸がしっかりしていて、映画としての質がグンと上がってる気がします。
惜しむらくは、終盤のインパクトが弱い所。
一時は離れていった相棒バニーが、修行時代と同様に歌詞が入った封筒を授けて立ち去るシーンは、確かに胸が熱くなった。
それでも、そこでボンと切られてしまうと、ちょっと尻切れトンボな感じはありました。
可能なら、復活したEltonのライブシーンで終わった方が、なお良かったかもしれません。
④「たまむすび」リスナーなので、「ボヘミアン・ラプソディ」も「ロケットマン」も観たキッカケは町山智浩さんの解説です。
毎度のことですが、町山さんの語りのうまさに、映画がとってもみたくなるのですが、実際観てみると解説と映画の印象を感じます。
「ボヘミアン・ラプソディ」はその典型で、町山さんの解説の方がはるかに面白く、解説された要素がほぼ語られてない映画は、むしろ物足りなく感じました。
実を言うと「ロケットマン」も似たような部分があります。
それは、町山さんの「アフター6ジャンクション」のElton Johnの歌詞解説(2019/6/3)が、あまりに面白かったことです。
「Your Song」についても、町山解説を聞くと、映画の印象が変わります。
なので、本作に観た人は是非その放送も聞いて欲しいです。
https://www.tbsradio.jp/376778