「回復者たち」CURED キュアード KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
回復者たち
もう二度と「人肉食べられるし死なないからゾンビになりたーい」なんて軽々しく言えない…。
なんたる絶望感とやるせなさ。
誰のどの目線になっても辛くて、誰のどの気持ちもわかるような、わからないような、わかりたくないような。
そしてなんたるタイミング。
現実的にパンデミックが起きている世界で、満員の小さなスクリーンの中この映画を観るしんどさ。
こんな時でも映画を観に出てしまう私の浅はかさ。後ろの方でしきりに響く咳の音にちょっとビビってしまう自分が嫌になる。
「回復者」の設定がキツすぎる。
化物状態の記憶が消えないままなんて。何もかもわからないまま暴れまわって、何もかもわからないまま戻れたらいいのに。
いやそれもしんどいか。周りに疎まれ恐れられても身に覚えが無いなんて。
治療が完了して街に戻っても差別的な扱いを受けてしまう回復者たち。
何が一番キツいかって、彼らを差別し遠ざけたいと思う気持ちを強く理解できること。
生まれた場所や肌の色で差別するのとはまた違う、現実的な恐怖感や嫌悪感があるわけでしょう。
大切な人を失った当事者なら尚更。
今まで通りにいられる方が不思議なくらいだと思う。
「感染者」の動きが印象的だった。
気になるのは感染者同士の挨拶みたいな仕草。
お辞儀し合うような、互いのにおいを嗅ぎ分け合うような、人間味のある仕草。
意識があることを表しているのかもしれない。
人を襲うときの動きは普通に怖い。あの状態で意識があるって、一体どんな気分なんだろう。もっと詳しくインタビューしてみたい。
ただ、設定の面白さのわりに盛り上がりには欠ける作品だった。
非常に興味深いことが次々と起こっているのに、あまりに辛気臭すぎる空気感からダラダラして感じてしまう。
所々で強めの緊張が襲ってくるのでなんとか持ち堪えてくれたけれども。
ドクターとジョーの二人がとても好き。哀しい運命、献身的な姿、涙目のキス。
アビーとセナンの微妙な関係性も好き。
終盤でセナンが馬力出して頑張るところ、本当にグッと来た。
ゾンビモノの作品はたくさんあるけれど、こういう少し変わった視点を持つ映画は特に好き。
感染力の強いウィルス、嫌だなあ。
さて、現在進行形のパンデミックはどんな終焉を迎え、どんな未来が待っているのかしら。なんていつまでも他人事なこと言ってる場合じゃないって、分かってはいるけどもさあ…。