「人間が生きようとする姿を渾身の力で体現したミケルセンを称賛したい」残された者 北の極地 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
人間が生きようとする姿を渾身の力で体現したミケルセンを称賛したい
舞台は極寒の地。雪と氷によってスクリーンは白一色に覆われ、まるで何も描かれていないキャンバスの中で、孤独な男が一人、必死にきりもみを続けているようにも見える。そんな中、特筆すべきはこの映画がフラッシュバックを一切用いていないことだろう。過去や未来は描かれない。状況説明もない。そこには圧倒的な現実があるのみ。観客は彼の心の内に入り込むことなく、圧倒的なリアリティから彼の人間性をじかに感じ取らねばならない。
彼がその場でたった一人で孤独であり続けたならば、そのまま動揺することなく最期を迎えられたかもしれない。だが序盤、思わぬところで「守るべき者」が舞い込むことで葛藤が始まる。使命が生まれる。己の命が自分のためだけのものではないという自責と、苦闘が始まる。そうやって初めて意志と希望が湧き出ずる。かくも人間が生きる姿を、その意義を、渾身の力で体現したマッツ・ミケルセンの演技、ただただ圧巻である。
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