エンテベ空港の7日間のレビュー・感想・評価
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愛国心と憎国心
1976年に起きたエンテベ空港ハイジャック事件を描いた話。
犯人グループサイドとイスラエル政府サイドの駆け引きや交渉をみせるところはあまりなく、それぞれの内側でのやり取りをみせる様な作り。
特に犯人グループサイドの西ドイツ人二人の機微をメインにみせていて、その葛藤なんかはなかなか良かったけど盛り上がりには欠ける印象。
山場の7日目、衝突シーンはどうなるのかと思ったらダンスの描写が頻繁に細切れに差し込まれていて流れは止まるし迫力も下がる。
ダンスの描写そのものは悪くないけれど、別々で良くないか?もうちょい本編映像側の流れをみせて欲しかった。
コンテンパラリーダンスにこめられた意味
イスラエルは、おそらく世界で最もコンテンパラリーダンスの盛んな国だ。
イスラエルは、新しい国家ということもあって、この特定の伝統に依らないコンテンパラリーダンスを後押ししているのだ。
床に強く倒れ込む場面について、演出家が言う。
「怪我はつきものだ、怪我を恐れていては、優れたパフォーマンスは出来ない」と。
まるで、争っている限り、人は傷つき、死ぬのだと示唆してるようだ。
軍人の恋人を心配しつつも、自らは怪我の恐れのあるパートを渇望する。
僕達の世界の抱える矛盾と何か共通しているではないか。
大戦後の中東政策でイスラエル建国を認めた西側諸国、
イスラエルのパレスチナ圧政に対して異を唱えながらも、イスラエルの核開発に手を貸すフランス、
ナチの亡霊に怯え、巨額の賠償金を払い続けてもパレスチナ圧政に口出ししないドイツ。
独裁国家を築き東西の狭間で、権力基盤を固めようとしていたアミンは、大量虐殺でも知られる人物だが、この事件のあと失脚し亡命生活となる。
エンドロールの前に流れるコンテンパラリーダンスも秀逸だ。
トレッドミルの上をひたすら走りを続ける長いスカートの女性の手前で、身体をくねらせ世界をかき乱さんとばかりに、足をくるくる回す男性。
お互い交わるところなどないのか。
アイデンティティとは何だろうか。
国家だろうか、民族だろうか、宗教だろうか、理想だろうか、信念だろうか。
作中のコンテンパラリーダンスが答えているように感じる。
まわりで少しずつ自らをさらけ出していく者たちいる一方で、1枚も身につけているものを手放せない自分は、倒れ込み続けるしかないのだ。
アイデンティティとは現在の自分を形作った全てを手放さずに持ち続けることではないのではないか。
色々手放してみて、最後に残ったもの、そう、自分自身がアイデンティティなのではないか。
宗教の価値観も数百年のスパンでは大きく変わってるはずだ。
きっと越えられないようなものはないように思う…が、
現在の世界は、エンドロールの前に流れるコンテンパラリーダンスと同じだ。
あの青い長いドレスを着た女性はどこに向かって走っていたのだろうか。
いや、走っているようで、その場に止まっているだけなのだ。
これが、世界の現状だ。
ラビンもシモンも和平に近付こうとしたが、何も変わらなかった。
プライベート・ウォーで隻眼の戦場記者を演じたロザムンド・パイクが、今度は祖国を離れ理想を求める女性テロリストを演じた。
どちらも命を落とす役だ。
そして、一見、この二人は真逆だが、根底にあるのは似たようなものかもしれないと矛盾を感じ、切ない気持ちになった。
昔の話でも、無関係な話でもない
40年以上も前の話で、登場人物の背景も複雑ですから、予備知識に不安がある人は、
事前にパンフレットを購入し、読んだ方が良いと思います。
いまだに、パレスチナ・イスラエル問題は解決していません。
なぜ、日本人やドイツ人がパレスチナのテロリストとして、事件を起こしたのか
を考えるきっかけになれば、良い映画です。
バットシェバ舞踊団「エハッド・ミ・ヨデア」というダンスで始まり、物語と共に
上演されます。
監督曰く、「イスラエルとパレスチナの抗争はお互いに傷つけ合っている」という
ことを比喩的な形で表現したそうです。
ドイツ人がユダヤ人を「選別」し、大量虐殺したことについては、
「シンドラーのリスト」「ヒトラーと戦った22日間」「否定と肯定」
「ヒトラーを欺いた黄色い星」「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」
「ゲッベルスと私」という映画を鑑賞すると理解できます。
ハイジャック犯が、ドイツ人ではなく、日本人であったとしても不思議はない
という以下の事実も知った上で鑑賞すると理解が深まると思います。
1972年5月8日、パレスチナ過激派テロリスト4人が、ベルギーのブリュッセル発
テルアビブ空港行きのサベナ航空のボーイング707型機をハイジャックして、
ロッド国際空港に着陸させ、逮捕されている仲間317人の解放をイスラエル政府に
要求しました。
イスラエル政府はテロリストによる要求を拒否し、ハイジャックしている
テロリストを制圧し、犯人の内2人は射殺され、残る2人も逮捕されました。
93人の人質の解放に成功したものの、乗客1人が銃撃戦で死亡しました。
この事件に対する報復として、以下の事件が起きました。
1972年5月30日、日本赤軍幹部の奥平剛士(27歳)と、京都大学の学生だった
安田安之(25歳)、鹿児島大学の学生だった岡本公三(25歳)の3名が、
パリ発ローマ経由のエールフランス機でロッド国際空港に到着し、スーツケース
から取り出したVz58自動小銃を旅客ターミナル内の乗降客や空港内の警備隊に
向けて無差別に乱射し、26人を殺害し、73人に重軽傷を負わせました。
奥平剛士は射殺され、安田安之は自殺し、岡本公三は逮捕されました。
アラブとイスラエルの抗争に無関係とされていた日本人が、一般市民を無差別に
殺害したことは世界に衝撃を与えました。
日本政府は、イスラエル政府に襲撃事件に関して公的に謝罪の意を示すとともに、
犠牲者に100万ドルの賠償金を支払いました。
そして、本映画の「エンテベ空港奇襲作戦」へと続きます。
1976年6月27日、イスラエルのテルアビブ空港発、ギリシャのアテネ空港経由、
フランスのパリ空港行きのエールフランス139便、エアバスA300(座席数300席)が、
ハイジャックされ、ウガンダのエンテベ空港に着陸し、岡本公三を含むイスラエルで
服役中のテロリスト40名に加えてドイツ等などで服役中のテロリストの釈放を要求
しました。
岡本公三は、今はレバノンのヨルダンで暮らしています。
今でも、イスラエルのテルアビブ空港等では日本人に対する入国審査と出国審査は
厳しく行われています。
パンフレットは、よくできているので、映画を理解したい人にはお勧めできます。
ロザムンドの演技が光る
プライベートウォーを観たばかりなので、違うタイプの女性を演じるロザムンド・パイクの演技が光りました。107分とコンパクトにまとまって分かりやすく、話の展開も良かったです。冒頭や所々に出てくるバットシェバ舞踏団のパフォーマンス&音楽が素敵でした!
社会派ジョゼ・パジーリャ監督による贅肉の欠片もないタイトな実録映画
リメイク版『ロボコップ』、TVシリーズ『メカニズム』、『ナルコス』、そして何と言っても『エリート・スクワッド』2作と徹頭徹尾社会派を貫く、ブラジルを代表する監督ジョゼ・パジーリャによる、1976年にエンテベ国際空港で起こったエールフランス航空ハイジャック事件を描いた贅肉の欠片もないタイトな実録映画。
ダニエル・ブリュールとロザムンド・パイクらパレスチナ解放人民戦線メンバー、人質の方々、ウガンダのアミン大統領、イスラエルのラビン首相と側近達といった登場人物の心情を交互に描くも、どの描写も色褪せて淡泊。エンテベといえばサンダーボルト作戦ですが、ラビン首相がパレスチナ人テロリストを解放するか作戦を承認するかで葛藤する間に黙々と訓練を続けるイスラエル国防軍を淡々と見つめる様も実に地味ですし、作戦遂行もあっという間に終わるといった具合に誰にも肩入れすることなくリアリズムを追求しています。
『ゴーン・ガール』で一気にスター女優の座についたロザムンド・パイクが非常に美しいのが印象的ですが、さりげなく挿入されるアバンギャルドな演出もあってパジーリャ監督が表現者としてネクスト・ステージに立ったなと個人的には感慨深かったです。
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