「繋ぎとめるもの」世界の涯ての鼓動 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
繋ぎとめるもの
※ トークイベントで、映画のプロローグの美術館の場面で、カスパー・フリードリヒの「海辺の僧侶」という絵画が背景として使われ、作中の映像を想起させるものになっていると説明がありました。出来れば、気をつけて観てみて下さい。僕は後でネットで確認して、なるほどと。ヴェンダースは、やっぱり良いです。
以下ネタバレを含みますので、ご了解下さい。
映画を通して、言葉で表すのが難しい、何か息苦しさのようなものを感じる。
そう、映画のオリジナルタイトルにもあるように、水の中にいて、少し圧迫感があるような感じだろうか。
そして、この感覚は、次第に水の奥底に沈み、息の出来ない、死を感じさせる状況に変化して行く。
出会うはずのなかった2人が出会い、そして、それまで研究や任務が全てにおいて優先すると考えていたのに、お互いは惹かれ合い、求め、側にいなくても常に頭から離れない、そう、水の中で身動きが取れない、息苦しさにも似た感覚を覚え始める。
しかし、これは生への渇望に繋り、ダニーは深海の奥底ハデスから脱出し、ジェームズも生還への決意を新たにする。
ダニーはジェームズに出会い、深く想い、そして、深海の奥底で生命の起源に触れ、生を実感する。
ジェームズはアルカイダに命を奪われた多くの罪のない人々を想いながら、ひとりの大切な人、ダニーに再会するために、自身の生の意味に気付いて行く。
北の曇天のフェロー諸島でも芽吹く生命と南のソマリアで死と隣り合わせの人々。
こうしたコントラストは物語に深みを持たせてるように思う。
エンディングの最後のカットは、2人がどうなったのか、観た人に判断を委ねてるように感じるのは僕だけではないはずだ。
ヴェンダースの映像は暖かい。美しいとか視覚的な言葉ではなく、肌て感じるような表現をしたくなる。
選んだ愛の物語も、切なくも愛おしい。
人によって色々な想いが交錯するのではないかと思う。
静かに、そして息を深く吸いながら、胸が少し押し潰されそうな感覚を楽しんで欲しい作品だ。
※ マカヴォイも良いですよ。