「大人になれない親たち」ワイルドライフ everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になれない親たち
なんて親だ!…
と内心呆れながらも、彼らの心理を追わずにはいられないような内容でした。
1960年、Montana州に引っ越して来たばかりのBrinson一家。
どうも引越を繰り返している家族で、原因は大黒柱Jerryの仕事が長続きしないことのよう。多少嫌な思いをしても踏ん張ることが出来ないらしく、家計より自分のプライドを優先してしまう男。妻に養ってもらうというのもプライドが許さない。どうにかして食べていかないと!という妻子のマイルドな助言も耳障り。現実逃避するかのように、山火事の低賃金消化活動に参加を決めてしまいます。1960年と言えばベトナム戦争真っ只中。兵役は嫌だけど、火事を相手に戦うのはアリかも、とりあえずカッコつくし、他の奴らも悲壮感漂っていてプライド傷つけられなさそうだし、って感じの動機と想像しました。
夫が出て行ってしまった。山火事で命を落とすかも知れない、重傷を負うかも知れない。大袈裟とも取れるほどパニックになる妻Jeanette。それまでは息子にとって父親がアメなら母親はムチのような教育ママに見えたのに、ガラリと変わってしまいます。次の大黒柱を探さなきゃ!という焦りみたいでしたが、別に捨てられた訳ではないし、本当に未亡人になってからでもいいんでは…と思うくらい過剰な反応に見えました。当時女性が稼げる賃金なんてたかが知れていたのでしょうけど、速攻で愛人シフトに切り替えて、息子を巻き添えにするJeanetteに嫌気が指しました。彼女自身、夫の不在で方向性を見失っているのかと考えましたが、Jerryの現実逃避はこれが初めてではないのは明らかです。火事から戻ってもまた引越を言い出すに決まってる…。もしかしたら彼女の中で、今度また夫がやらかしたら離婚だと決めていて、本当にその時が来てしまい、気持ちの整理がつかないままMillerと関係を始めたのかなと思いました。
しかし夫が山から帰って来ると、なぜか一応元の良妻風外見に戻っているJeanette。
Jerryの方も何事も無かったかのように帰宅。数年に一度はこうなんでしょうね。留守中の妻子の身を案じる所か、2人とも俺の帰りを待ち侘びていただろ?俺の話聴きたいだろ?俺に付いていきたいだろ?新天地でやり直そうぜ!ってくるから、ウンザリする気持ちもよく分かります(^_^;)。Jerryは家族を養う覚悟のない男です。息子が学校に馴染めなくても、妻が寂しい思いをしても、一向に構わない自己中男なのでしょう。
自転車通学できなくなるから雪は嫌だったのに、雪が降れば火事が収まりお父さんが帰ってくる!お母さんが安心する!と楽しみにしていた息子の気持ちを父は知らず。放火を思い付く辺りから、やはり消化活動そのものには意義を感じていなかったこともバレバレです。
両親の顔色を伺ってばかりのJoeが気の毒でなりませんでした。こんな毒親に挟まれて、物凄い悪影響を心配しますが、両親と違ってバイトも続くし、大事な仕事も任されるし、学業成績は優秀だし。いい子すぎる…(>_<)。
山火事を母子で見に行った時、小さい動物や動物の子供は命を落とすこともあるとJeanetteが話すので、この一家に放たれた「火災」の中、Joeがもしかして…と気にしながら観ていましたが、賢い子供は大丈夫、火傷を負ったのは愚親達の方でした。
記念日や特別な日に撮る家族の写真。
有限の幸せは、写真の中で固まったまま永遠に。
ほんの一瞬でも幸せなら、全く喧嘩のない1日を過ごせたのなら、楽しく食卓を囲むことが一度でもあったなら…
Joeの宝物になるのかな…。
Millerは出て行った妻の写真を片付けていませんでしたね。出て行った理由は語られなくとも納得。
親がワイルドライフな物語でした。
貧窮するシーンをもっと描いたら良かったと思いますが、Paul Dano、監督業も良い感じです!
“You see people like to come in here to remember something good that's happening in their lives. They wanna make that happy moment permanent. That way, they can keep it forever. And we're here to help them do that.”