「なかなか複雑でサスペンスフル」工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
なかなか複雑でサスペンスフル
スリリングで非常に面白いサスペンスだった。スパイとして何らかの作戦行動をするというよりは、ほとんどの時間で信用を得ようとすることしかしていないのも面白い。
注目すべきはやはりリ所長だろう。
彼は北の人間で自国が不利になるようなことは望んでいないが、北の国民に南の資本主義に触れさせることで意識改革をしたいと願う人物だ。
自国に対して小さな革命を起こしたいが裏切り者でもない。リ所長にとって主人公は正に求めている人物だといえる。
リ所長は主人公に対してスパイの疑いをもって接するのだが、物語の中では主人公視点で描かれるため、正体がバレるのではというハラハラ感を生む。
しかしリ所長の想いが明らかになったあと思い返してみると、彼は常に主人公がスパイではない証拠を探しているだけだったのだ。頼むからただのビジネスマンであってくれと願う。
その強すぎる想いは次第に主人公に対してゆるいジャッジへと変わっていく。状況的にどんなに怪しくとも決定的な言動、行動がなければ白と判断しようとする。
しかしリ所長のしようとしていることは悪魔の証明だ。スパイである証拠はたった一つでいいが、スパイではない証拠は見つかるはずはない。そんなものは本当にスパイではなかったとしても存在しないのだから。
主人公とリ所長はそれぞれ悪魔の証明に翻弄されながら違う状況で追い込まれていくこととなる。
政治を絡めた攻防で、彼らの状況は複雑化していく。南の選挙結果を知っているから余計に面白い。
つまり、主人公、リ所長共に、ある意味で失敗すると分かっているからだ。
彼らはどのように失敗してしまうのか、失敗したあとどうなるのか、先の見えない展開が面白い。
作戦が失敗してしまう敗北エンド。しかし一筋の達成感がある終わり方もまたいい。
所属する国、組織にとらわれず個人としてでも想いを一つにできたように感じられる。