「エルのPVみたいだが内容もちゃんとしてる」ティーンスピリット つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
エルのPVみたいだが内容もちゃんとしてる
最初にこんなこと書かなきゃならないとは思わなかった。しかし、勘違いしているレビューがいくつかあったので書かなければならない。
ヴァイオレットは年齢を偽ってティーンスピリットに出場していないぞ。
嘘なのはヴラドに対して言った21歳のほうで、彼女は17歳だ。
大体、学校でクラスメイトと「ティーンスピリット出るの?」と会話しているのにどうしたら間違えられるんだよ。
まともなストーリーも理解出来ないで作品の評価が出来るとは思えないけど、それはまあいいや。
では何故ヴラドに嘘を言ったのかがこの作品の核になる部分なんだ。
ヴァイオレットは子どもだ。彼女の求めるものは大人からとやかく言われないこと。
未成年がバーでバイトして歌っている事をとやかく言われないようにヴラドに嘘を言ったわけだ。
子どもの自分に注意する大人とは、無限の可能性を秘めた若い自分に対する嫉妬くらいに思っているんだよね。まあ誰しも多少は心当たりあるでしょ?
でも実際はそんなことない。これは大人になれば自然とわかる。中には嫉妬する人もいるだろうがね。
その辺のことはヴァイオレットが歌う歌詞の中にも表れていて、ミュージカルのようだったのは面白かった。
既存の楽曲を使っているから完全にマッチしているわけではないのが少々残念だけどね。
子どもから見た大人、その一番近いのが親子ってことになる。
ヴァイオレットはいなくなった父親をずっと気にしている。ヴラドはパリにいる娘と疎遠だ。
そんな中、ヴァイオレットはヴラドに父親の姿をみて、ヴラドはヴァイオレットに娘の姿をみる。
ここに疑似親子が誕生し、父と娘、大人と子どもの理解を深める物語。
だから極端な話、ティーンスピリットに出ることとか、いい成績を残すこととか、契約することとかはどうでもいいんだよね。少女のサクセスストーリーではないから。
歌い終わったあとの結果が出る前に抱き合うヴァイオレットとヴラドは映画「ロッキー」みたいで最高に良かったでしょ。
この後、本当に優勝させちゃうあたりがマックス・ミンゲラ監督が青くてセンスないところだと思うんだよな。確かに結果は気になるけれども。
なんか若い才能に嫉妬する大人みたいになってしまったけど、まあいいや。
少し話が戻って、決勝の舞台の前にヴァイオレットが父親のネックレスを外すシーンから妻と意見が割れた。
子どもから大人への成長の瞬間なのは誰が観ても同じだと思うが、妻は具体的に父親との訣別だと言った。私の見立ては違う。
父親の帰りを待つといういかにも子どもらしい受動的な心からもっと能動的な心への変化だと思うんだよね。
エンドロール中のインタビューシーンの最後で、今後はどうしますか?の問いに「父を探します」であって欲しいなと思う。