劇場公開日 2020年1月10日

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「デス・スターが出てこないエピソード4」ティーンスピリット よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0デス・スターが出てこないエピソード4

2020年1月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

英国ワイト島で母と暮らすポーランド移民のヴァイオレットはいつもiPodを聴いている孤独な女の子。プールバーでバイトしながら母に内緒で場末のパブで細々と歌っているところに声をかけてきたのはクロアチア移民の酔いどれ親父ヴラドだけ。そんな折テレビのオーディション番組”ティーン・スピリット”の予選が近所で行われることを知ったヴァイオレットは参加を決意するが、それには保護者の同意が必要。彼女はやむなくヴラドに頼むが実は彼は著名な元オペラ歌手だった。

本作、かなり奇妙な作品。インスタがどうしたみたいなネタも出てくるので紛れもなく舞台は現代なのに物語を彩るシンセサウンドは80’sのトーン。窒息しそうなくらい薄暗い曇天の町で誰にも胸の内を明かさずに悶々と過ごすヴァイオレットの姿にアノ映画のヒロインの姿が重なったところでアノ曲のイントロが被さるものの80’sリスペクトはどこにも見当たらない。そこにあるのはド田舎に横たわる貧困。しかしその悲壮感もまた刺身のツマ程度にしか添えられない。オーディションでの激しいバトルもないし、ヴァイオレットを窮地に陥れる罠もない。『8 Mile』のような突き抜けた自虐もない。ヴァイオレットが勝手にやさぐれて自暴自棄になるだけ。要するにエル・ファニングが主演じゃなければ焦点がぼやけたつまらない青春映画。しかしこういう小品で彼女が魅せる透き通った美しさは圧倒的でただただ見惚れてしまいます。そして彼女の歌声がこれまた美しい。歌唱スタイルはAdeleの影響下にある魂を振り絞るような切なさに満ちていて、名前負けも甚だしいタイトルが醸す軽薄さを軽々と越えて木霊する彼女の声に魂を揺さぶられながら確信しました。

・・・これはデス・スターが出てこないEP4だ。

ヴァイオレットが包み込むワイト島の夕暮れはタトゥイーンでルークが眺めていた二重太陽の夕陽と同じ。すなわちヴァイオレットを導くヴラドはオビ=ワン。

フォースと共にあらんことを。そんな映画ですのでエルちゃんに興味なければ怒るやつだと思います。

よね