「強いて例えるなら女子プロレス版『8 Mile』、涙と笑いに満ちた英国産スポ根ドラマ」ファイティング・ファミリー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
強いて例えるなら女子プロレス版『8 Mile』、涙と笑いに満ちた英国産スポ根ドラマ
英国北部の田舎町ノーウィッチで零細プロレス団体を営むナイト一家の一人娘サラヤは兄ザックと共にWWEのレスラーになることを夢見る女の子。今日も今日とて曇天下の街頭で同世代の女子に鼻で笑われながら興行のビラを配りリングに上がる毎日。そんな折WWEがロンドン興行中にトライアウトを実施することを聞きつけた2人は勇んで応募するが・・・。
WWEの最年少王者となったペイジと彼女を支えたエキセントリック極まりない家族の絆を軸にした涙と笑いが満載の実録スポ根ドラマ。フロリダに渡って早々英国訛りをバカにされるというあるあるな洗礼をきっちり受けて孤立するサラヤ、そんな苦悩も知らずに勝手にノベルティグッズを作って小銭を稼ぐ父母、妻子を養いながら諦め切れない夢にしがみつく兄ザック、優等生にも不良にもなれずレスリングジムに通う少年少女達、様々な境遇にある人々に福音をもたらすのがギターリフ。モトリー・クルー、アイアン・メイデン、モーターヘッド・・・まさかそんなハードロックの名曲をバックに号泣することになるとは夢にも思いませんでした。リフで泣けるといえばラットのRound and Roundに涙腺を木っ端微塵にされた『レスラー』を思い出しますが、プロレスとハードロックの相性がいいのは成功とは縁遠い人達が抱えるルサンチマンをエクトプラズムに変えて浄霊する儀式と祝詞の関係にあるからではないのかと思い知らされます。
ポスタービジュアルでは主役級の扱いなるも実は本人役でのほぼカメオ出演のザ・ロックが漂わせる貫禄、前科者ながらプロレスで更生した父パトリックを演じるニック・フロストの軽妙さ、見た目バリバリビッチな母ジュリアを演じるリーナ・ヒーディがぶち撒ける母性、サラヤ他新人レスラー達を徹底的に鍛える鬼コーチのハッチを演じるヴィンス・ヴォーンが醸す漢気、個性的な助演陣の確かな演技が軽薄に扱われがちなスポ根ドラマに別次元の奥行きを与えています。強いて例えるなら女子プロレス版『8 Mile』、今年ベスト級の傑作をまた観れてしまったことに感謝しかないです。