作兵衛さんと日本を掘るのレビュー・感想・評価
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実直すぎるほど実直な記録映画
明治から昭和40年代まで日本のエネルギーの基幹産業として支えるも、徐々に衰退していった炭鉱業を追った、ドキュメンタリーとして実直な内容。
常に死の危険と闘いながら日々炭まみれになって働く者の生活ぶりを、元炭鉱夫が遺した稚拙ながらも生気に満ちた画で見ていく。
記録映画としての側面が強いため、正直言ってドラマ性に欠けるのは致し方ないが、令和へと元号が変わる中で、風化しつつある明治、大正、昭和と続いてきた歴史を遺す意味でも、製作した意義はあったと思う。
石炭の記憶
50年以上前には家の仕事で石炭を使っていた事、レンガ造りのオーブンを使っていた。仕事が済んだ後の余熱で焼きリンゴを作ってくれた父が偲ばれた。
小学校は石炭ストーブで、日直さんは職員室の隣の石炭置き場から一日分の石炭を運ぶのも仕事だった。
そんな石炭を掘り出していた人たちの話だ。
日々の労働が死と隣り合わせ、坑道をたどって降りていく、次に生きて子どもと会えるのか、
そんな事を考えた女性坑夫の話を聞くと涙が出てきた。
作兵衛さんの絵は、特に男性が力強く男らしい。絵で伝えたいものがある絵だ。
記録と記憶が重なり、心動かされる映画だった。
作兵衛さんの作品に興味がある人は必見
ユネスコ記憶遺産に登録された時にニュースになり、日曜美術館でも紹介されたが、この映画はそれから5年以上経った後の、かなり季節外れの映画である。とはいえ、某映画館でロングランになっているように、いまだに反響は高いようだ。
この映画は、単に作兵衛さんの作品を紹介するだけでなく、ニュースなどではあまり触れられなかった炭鉱労働者への差別、作家の上野英信や森崎和江のこと、元炭鉱婦のおばあさんや作兵衛さんの親族や知人へのインタビューなど、重層的な構成になっている。それらを通じて、一見穏やかな作兵衞さんの秘めた怒りや、過去への惜別の思いが伝わってくる。
監督は、本作を長年完成できずに、「自分には炭鉱というものに対する皮膚感覚がないためではないか」と思って苦しんだと語っていたが、この映画には三池炭鉱の労働争議などとは、全く異なった感性や切り口が求められたようだ。
作兵衛さんの作品に興味がある人は必見である。
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