「罪を犯すことでしか生きられなかった人生の切なさ」ある女流作家の罪と罰 とえさんの映画レビュー(感想・評価)
罪を犯すことでしか生きられなかった人生の切なさ
今年のアカデミー賞で話題になっていた作品で、観たいなぁと思っていたところ、日本では残念ながらDVDスルー
それをスクリーンで観ることができて、とてもラッキーだった
主人公のリーは伝記小説専門の売れない女流作家
ヒット作に恵まれず、生活に困っている中、ある女流作家の手紙を偽造したところ、それが思ったよりも高値で売れてしまい…
そもそも、彼女は文学が大好きな人だ
好きな作家については、文章のクセから交友関係まで知り尽くしている
今なら「文学ヲタ」という言葉がぴったりなタイプだ
そんな彼女はきっと子供の頃から本の虫と呼ばれ、友達を作るよりも本を読むことに一生懸命だったはずだ
そのためか、友達も少ないし、社交的になれず、文才があっても、その才能をうまくアピールすることができない
だから、彼女は売れない作家なのだ
でも、そんな彼女だからこそ、とても魅力的に思えたし、とても同情してしまった
本を書いても売れないから、モチベーションが上がらない
しかし、大好きな作家になりきって手紙を書けば「この文章、素敵ね」とほめられ、お金までもらえてしまう
それなら、罪だとわかっていても手紙を書いてしまおう
その思いが、とても切なかった
この物語は、そんなリーの実話を映画化したものだが、友情物語の側面もある
そんな風に、リーはうまく社会に迎合できず、才能を生かしてバンバンヒット作を生み出すような器用さもない
そのリーの目の前に現れたのが、ジャックなのだ
ゲイのジャックは、ドラッグもするし、酒も飲む
どこからともなく現れては消えていく風来坊の人だが、リーの仕事を手伝ってくれる情の厚いところもある
そんなつかみ所のないジャックだからこそ、リーにとって、とても居心地がいい相手だったんだろうと思う
そんな2人のとても楽しげな友情は、この映画の中で救われる場面だった
今の世の中、いつ何が起きるかわからない
もしかしたら、リーの暮らしは「明日は我が身」かもしれないのだ
では、もし、私がリーの立場だったら、どんな生活をするだろうか…
と考え、何気ない毎日を続けることの大切さを思った作品だった
みんながみんな、思い通りに成功できるわけではないのだ