「罪を犯すことでしか生きられなかった人生の切なさ」ある女流作家の罪と罰 とえさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5罪を犯すことでしか生きられなかった人生の切なさ

2019年6月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

今年のアカデミー賞で話題になっていた作品で、観たいなぁと思っていたところ、日本では残念ながらDVDスルー

それをスクリーンで観ることができて、とてもラッキーだった

主人公のリーは伝記小説専門の売れない女流作家

ヒット作に恵まれず、生活に困っている中、ある女流作家の手紙を偽造したところ、それが思ったよりも高値で売れてしまい…

そもそも、彼女は文学が大好きな人だ

好きな作家については、文章のクセから交友関係まで知り尽くしている

今なら「文学ヲタ」という言葉がぴったりなタイプだ

そんな彼女はきっと子供の頃から本の虫と呼ばれ、友達を作るよりも本を読むことに一生懸命だったはずだ

そのためか、友達も少ないし、社交的になれず、文才があっても、その才能をうまくアピールすることができない

だから、彼女は売れない作家なのだ

でも、そんな彼女だからこそ、とても魅力的に思えたし、とても同情してしまった

本を書いても売れないから、モチベーションが上がらない

しかし、大好きな作家になりきって手紙を書けば「この文章、素敵ね」とほめられ、お金までもらえてしまう

それなら、罪だとわかっていても手紙を書いてしまおう

その思いが、とても切なかった

この物語は、そんなリーの実話を映画化したものだが、友情物語の側面もある

そんな風に、リーはうまく社会に迎合できず、才能を生かしてバンバンヒット作を生み出すような器用さもない

そのリーの目の前に現れたのが、ジャックなのだ

ゲイのジャックは、ドラッグもするし、酒も飲む

どこからともなく現れては消えていく風来坊の人だが、リーの仕事を手伝ってくれる情の厚いところもある

そんなつかみ所のないジャックだからこそ、リーにとって、とても居心地がいい相手だったんだろうと思う

そんな2人のとても楽しげな友情は、この映画の中で救われる場面だった

今の世の中、いつ何が起きるかわからない

もしかしたら、リーの暮らしは「明日は我が身」かもしれないのだ

では、もし、私がリーの立場だったら、どんな生活をするだろうか…
と考え、何気ない毎日を続けることの大切さを思った作品だった

みんながみんな、思い通りに成功できるわけではないのだ

とえ