「血脈なのか原体験なのか」カニバ パリ人肉事件38年目の真実 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
血脈なのか原体験なのか
徹底的に顔に終始し、ピンの合わないカメラ。不快な咀嚼音や「これが人を食べた口だ」といわんばかりの口元に終始したカメラワークに辟易。
人間の欲求は説明しようとすればするほど、朦朧としてつかみ所のないものだと言いたいのかもしれないが、そこが狙いすぎ。
徹底的な顔のアップが功を奏したのは、仰向けになった佐川と目があったとき。
それまで枠外に目を向けていた佐川が、カメラを直視する。
人を食べた人という先入観があるからか、つい目を背けた自分がいた。
驚くのは弟の性癖が明らかになったとき。
「ほかにも同じような症例があるかもしれない」と冷静に自分を分析する弟。これは血のなせるわざと片づけていいのだろうか。
それとも佐川の幼い頃に人肉への憧憬を抱かせてしまった叔父の怖い話を、弟も一緒に聞いていて刷り込まれてしまったのか(Wikipedia参照)。
裕福な家庭での仲むつまじい幼い頃の二人の姿には、将来人肉への強い欲求を覚えてしまうようにはとても見えない。
しかし息子たちが注射をされている姿を、わざわざホームビデオにおさめる行動からして、親もそのけがあったのかもしれない。
一体人はいつ欲求を抑えられなくなってしまうのだろうか。
「かぶりつきたいほど可愛い」という表現がある位なので、愛しいものを食べたい噛みたいという欲求は本能に備わっているものなのだろう。
弟のいうように合理的な手段で欲求を発散していれば、殺人にいたることはなかったのかもしれない。
それにしても、勇気を振り絞って性癖を告白したのに淡白な反応にがっかりしたり、兄の描いた漫画に「こんなものを出版したら兄の評価が落ちる」などと憤る弟の姿に、妙ないじましさを感じたり。
しかし全体的に内容が希薄。
佐川の口から語られることは多くなく、映画館でみるほどの作品ではなかった。
というか、配給があのTOCANAだって。一番の驚きはそこ。