「アレは言っちゃダメってのはわかる」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
アレは言っちゃダメってのはわかる
連休3日目。
ソコソコ埋まった客席は、30代〜40代の男性が大半で一部そのお父さんに連れられてきたお子さん。とにかく成人女性の姿はほとんど無かった。
で、見終わっていろいろ心の中を整理する。
個人的には、それほど感情的に怒りをぶつけたくなる様な作品ではなかった。
もちろんドラクエをちゃんと初代からクリアしてきたファンとして、また単にゲーム好きな大人としての怒りも無くはない。
ただ、何しろ「つまらない」んだもの。
怒りをぶつける気力も起こらない。
この映画は、多少のアレンジはあるものの、基本的にドラクエ5をトレースしていくだけ。観客はそれを眺めているだけの存在。
「いやいや、ストーリーは知ってるし」
当時ドラクエ5が話題になったポイントの1つは、フローラ・ビアンカ問題でプレイヤーに『物語を選ぶ』という展開を与えてくれたことなのに、当然ながら観客は見てるだけ。
あのフローラ選択の自己暗示オプションっていう伏線も全然成立してないし。結果としてドラクエ5の良さまで否定してしまう。
(ただフローラ・ビアンカ問題はそもそももてはやされ過ぎだよね。プレイヤーから見ても只のいちイベント。むしろ大きな時間の流れの中で語られるストーリーこそが素晴らしかったはず。)
で、またそのトレースしたお話がホントに「しょーもない」んだ。
演出が、すべて子供合わせ?って感じ。
まあそういう映画かぁ…と諦めて頭の中をそのモードに切り替える。午前中の「Eテレ」を見てる感じ。
そして問題のラスト。
あの「ウィルス」が登場。明らかにキャラクターの後ろにいるプレイヤーたる観客に「大人になれよ」と語りかけてくる。
え?このお話、大人に向けて作ってたの?…だとするとこの脚本書いた人はよっぽどですよ。
もちろんこの「大人になれよ」に怒ってる人の気持ちはすごくよくわかる。
ウィルスはもちろん「敵」ってことになる。
ただ、この敵で象徴される「ゲーム世界に入り浸ってる我々をバカにしてる存在」って、そもそも「ゲームに価値を見出して楽しんでいる我々」とは並行する世界にいる訳で、実は衝突どころか接点さえなく、本来対立関係にはなり得ない。
そこを無理矢理ラスボスとして登場するもんだから、あのウィルスに対しても「はあ、そうですか。あなたにはわからないだけだと思うんですが…」としか思えないし、ヤツがゲームを妨害しようとする目的もよく分からない。
ただの悪趣味な嫌がらせに、瞳に炎浮かべて「させるかぁぁっ!」ってはね返して終わりってのも何だか空々しい感じ。
その悪意が生まれた経緯とか、苦悩とか、主人公に気付かされるとか、ソコを表現するのが物語ってもんでしょ。
最終的にスラリンのワクチンで駆除する訳だけど、ウィルスの製作者(がいるとして)はそのままなんでしょ?目の前の火事を消しとめた!って喜ぶのは良いけど、放火魔はまだ火をつけて回ってる訳だから何の解決にもなってない。
で、結局私が何に腹を立ててるかっていうと、こんなくだらないオチの為に、1時間以上あのしょーもない「ドラクエ5の焼き直しコント」を見せられたのか、と。
声優陣は頑張ってたし、映像も音楽もいい。
材料は素晴らしいのに、シェフがダメだったっていう典型的なパターンよね。
【物語の整合性はあえて置いといて】
むしろ、あの、ラストの展開は、個人的には効果的ではあったと思います。(いい効果とは言わない)
意地悪くとらえてしまいますが、
「俺様とかが嫌々とリメイクとかクソみたいな仕事させられるのよ、おう、大人になれよ視聴者どもさあー」
って、強い製作者の想いを受け取って考えさせられるものがありましたし。
まったくDQ知らんプレイヤーがやってた…と、世界観が一気に虚構的にみえる演出もコズミックホラー的で最高でした。
まあ、伏線をめぐらしつつ、視聴者の納得できる形でカタルシスを回収できれば、良作になってただろうにと、少し残念にはなりますが。
自称ウィルスの人がなんかすり寄って星の数を下げろと意見具申してきてますね。
人には人の評価の付け方があると思います。そこに口出しする同調圧力の発露は、映画レビューサイトの健全性を犯す行為だと思います。なにもほんとにウィルス演じて迷惑かけなくてもいいでしょうに...。