「意外と伏線が貼り巡らされた考察しがいのある映画だった。」二ノ国 ドラゴン竜さんの映画レビュー(感想・評価)
意外と伏線が貼り巡らされた考察しがいのある映画だった。
まず最初に行っておくと、この映画は大人向けなのか子供向けなのか、どちらに定義するのかで評価が大きく変わると思います。
大人向けと考えると、脚本やキャラの違和感が多々ありイライラしてしまう可能性があります。
しかし、子供向けと見るなら王道的ファンタジーながら分かりやすいどんでん返し要素があって面白いと思います。
私としてはファンタジー要素が強いので子供向けとして見た方がストレスがないかと思います。
しかし、実際は評価しているのは大人が大半であり、これによりこの映画が酷評されてしまっている気がします。
これはそもそもネットに書き込むのが大人が多いということはありますが、そもそも大人が多く見た作品なのではないかと思います。
ここからは完全に私の主観的推論です。
この映画はプロモーションからジブリが協力していることが分かっています。
ジブリ作品は優しい絵柄で子供向けのように見えながら、大人にも愛されている作品が多いです。
なので、二ノ国としてではなくジブリ的映画として大人も結構見たのではないでしょうか。
cmは結構やってましたから、大人が興味を持つ機会は充分にあったと思います。
しかし、二ノ国自体はかなり子供向けのゲームなんですよね。
童話的なファンタジー世界で、可愛いモンスターを連れて魔法で戦う。
一作目は特にそうで、子供中心で売れていたDSで発売されていました。
二ノ国2はps4で発売されていて王国を作るという壮大な話ですが、やはりコンセプトは子供向けのような気がします。
2はストーリーはかなり王道的かつ単調的とも捉えられ、どちらかというとゲームシステムの方に力を入れていました。
つまり元々は子供向けな作品であり、その方向性で評価されたからこそシリーズ化しています。
今後も新たにゲームが発売されることは予定されています。
しかし、これがゲームではなく大衆が見る映画になると、ジブリというブランドによって大人も多く見たのではないでしょうか。
それによって、評価が荒れてしまった。
さらにこの映画を見るにあたって、原作を知っているかどうかでも評価は分かれる気がします。
ちなみに私は2作とも最後までプレイ済みです。
原作を知らなくても充分楽しめますが、原作の要素が映画に結構盛り込まれているので、知っていた方がより楽しめるのは間違いありません。
音楽も原作のものが使われており、知っている曲が要所で流れてくれるのは嬉しかったです。
では、ここからはストーリーやキャラについて書いていきたいと思います。
ここからネタバレ満載です。
ユウとハルは幼馴染で、コトナはハルの恋人です。
ユウは車椅子に乗り、ハルは運動神経抜群と対照的な二人。
まず、この設定ですが、他の人の評価を見ていると「そもそも車椅子という設定は必要だったのか」という意見が多かったです。あとは障害者に対する配慮が足りないとも書かれていました。
確かに一ノ国で車椅子に乗っているシーンは所々ありますが、基本的には二ノ国で歩いているのであまり描写はありません。
そして、それほど車椅子が上手く使われていなかったにもかかわらず、最初のほうのシーンで「階段に一人だけ登れないユウ」という障害者の大変な部分だけがピックアップされているんですね。
これが結構問題視されているようです。
私も最初はそうは思いましたが、実は最後まで見るとちゃんと車椅子という設定は生きていたんですね。
それはラストの方にアーシャ姫が言っていた「来訪者が長く二ノ国にとどまることは許されません。その者の命を奪うことにも」というセリフが関係しています。
これを言われたのでユウは一度は戻ろうとするのですが、覚悟を決めて二ノ国に居続けることを選びました。このシーンは、デメリットを提示されたにもかかわらずユウが残ったので驚きました。
しかし、実はそもそもユウは二ノ国においてのハルであり、一ノ国のほうがいてはいけない場所だったんです。
アーシャのセリフが正しく、それが逆の立場でも言えるのだとしたら、一ノ国にいたユウは許されざることをしていたことになります。
それも十年以上です。
そして世界のルールを犯しているからこそ、ユウの体は足が動かなくなってしまったのではないでしょうか。
そう考えると、設定の時点でユウとハルが同一人物である伏線が貼られていた可能性があるんです。真相は分かりませんが。
だとするならば、車椅子に乗っているという描写は必要なわけです。
最初は二ノ国に来たことにより、身体能力が強化されて足も治ったと思いました。間違ってはいませんが、その本当の理由はそもそもユウが勇者であり二ノ国の住人であったからだったんですね。
二ノ国に馴染むように身体能力が上がっていたのはハルの方だったんですね。まぁ、春は元から運動神経が良かったですが。
このようにちゃんと意味はあるようにも感じますが、ラストのシーンが特に批判を受けているようでした。
序盤のシーンでユウが登れなかった階段に行くんですが、二人は気にせず登り始めるんですね。
これが、結局車椅子に登れなかったユウがいなかったことで、スムーズに階段を登ることができた。つまり「障害者がいないほうが楽だと主張している」と捉えている人が多かったです。
確かに私もこのシーンは若干、違和感を覚えました。
けれど、ちゃんと見ると違う解釈も出来ました。
それはハルとユウ、コトナが三人で一緒に階段を登れたということです。
何を言っているのかというと、ラストでハルが言っていた「ユウ、今は前以上にお前を近くに感じるよ」というセリフが関係しています。
これはいるべき世界に戻り離れ離れになってしまったけれど、命を共有していることを知ってより近しい存在に感じたということだと思います。実際、同一人物と言ってもいいのですから。
そして、その台詞と共にハルは階段を登ります。
あの時は一緒に登ることができなかったけれど、近くに感じている今ならユウと一緒に登ることができる。
つまり、あの日叶わなかったことが今は出来たとも捉えられるんです。
次のシーンでは、まるで一緒の行動をしているかのように、ユウも階段を登っているシーンが描写されます。
私の考えすぎとも言えますが、こうも考えられなくはないと思います。
そして、二人が本来いるべき世界で新しい道を進んでいくということを表しているような気もします。
なので、ラストのシーンは私はかなり高評価をしています。
しかし、この「ユウとハルが同一人物」という点で引っ掛かる点が一つあります。
それは二人の容姿が似ていないことです。
アーシャ姫とコトナ、女騎士のヴェルサとサキ姉はそっくりなんですね。
これでユウは二人の人間の命が繋がっていることを確信します。
けれど、ユウとハルがどこかで似ているという描写はあっても、容姿や声が全く違うので命の共有者という結論に至りにくかった。実際私がそうだったので、最後のシーンはかなり驚きました。
2人の容姿が似ていないことは最後のインパクトに繋がりますが、そもそも似ていないのは設定的に矛盾しているのではないか、とも捉えられることができます。
けれど、実は二ノ国の設定としてはなんらおかしくはないんです。
この映画で出てきたのが見た目がそっくりな人だっただけで、ゲーム版だと見た目が全く違うけど魂は同じキャラが出てきます。
※ここはゲーム版の二ノ国のネタバレを含みます。
例えば、一ノ国では猫の姿ですが二ノ国では猫と人が混じった姿をしているキャラや、普通のおばさんなのに二ノ国では巨大な女王だったキャラがいます。
一番わかりやすいのは、一ノ国では人間なのに二ノ国ではネズミというパターンもあります。
つまり、ゲームの設定で言えば何ら二人の姿が似ていなくても問題はないんです。
逆に同じ人間という種族なので、似ている方なのかもしれません。
これを知っていると、原作の設定をいかした秀逸などんでん返し的展開を行ったと考えられます。
他にゲーム版の要素としては、謎のおじいさんの存在、エスタバニアという国、グラディオンなどがあります。他にも細かな要素はたくさんあります。
謎のおじいさんが、最初のゲームで主人公だったオリバー説は有名だと思います。終盤でオリバーと同じ格好をして出てきますからね。
これはプレイしていた人からすると、登場してくれただけでうれしいですよね。
ただ、性格が全く違うんですよね。
歳とって少しボケてると考えれば、元の性格とかけ離れていてもおかしくはありませんが。
個人的には実は違う人物なんじゃないかなって思ってます。
次の大事な設定であるエスタバニアというのは、映画の舞台となった国のことです。
これは二ノ国2をプレイ済みの方ならピンとくると思います。
実はエスタバニアはプレイヤーの分身である2の主人公エバンが作る国なんです。
しかも、住人や施設をプレイヤー自身が集めたり開発していくんです。
完成させるまでにはかなりの時間を必要とするので、自然と愛着がわいてきます。というか、もはや自分の国ですからね。
なので、エスタバニアが今なお存在しているだけで嬉しかったです。
さらに、映画ではエスタバニアの街並みが奇麗に描かれているのが嬉しかったです。
ゲームだと他国の場合は隅々まで見渡せるんですけど、自国のエスタバニアはシステム的に上からの視点でしか見ることができません。(詳しくは公式サイトを見てみてください)
ゲーム内でじっくり見れるのは、映画でも登場した玉座のある部屋だけなんです。
なので、町の酒場とか住民とかが詳しく描かれたのは本当に嬉しかったです。
最後の大きな要素として、グラディオンですね。
ラストシーンでボスを倒した剣ですが、これ私が作った剣ですからね(笑)
どういうことかというと、二ノ国2においてラスボスを倒すために必要な物で、素材を集めてエスタバニアの工房で作ってもらった剣なんです。
映画では謎のおじいさんが持っていた杖がそうだったので、同一の物かは不明ですが。
ゲームをプレイ済みだと、原作の要素が扱われているだけではなく、自分がやってきたことが重大な要素になってたりするんです。
なので、本当は二ノ国をプレイしてから見てほしい作品なんですよね。
特に同じ舞台である二ノ国2のほうを。
自分が作った剣を映画の主人公が使うって、普通の作品じゃ味わうことができない展開ですからね。
このように、車椅子の描写や一見するとよくわからない描写も、考察してみると納得がいったりゲーム版の要素をうまく扱ったものだったりするんです。
あとはハルが感情的になりすぎていたりとか、永野芽郁さんの声が余り合っていなかったや、台詞が多かったり独特な言い回しがあるなど、不満点というか変なところは多々あります。
けれど、そういった不安定な要素があったとしても、それが気にならないほどの設定をうまく生かした伏線や展開があり、充分楽しめる作品だと思います。
絵も綺麗ですしアクションシーンも神作画とまではいませんが、臨場感がある見ごたえのあるものではありました。
なので、「大人も楽しめるジブリ的映画」ではなく「子供向けかつ二ノ国というゲームが原作の映画」と見ると、かなり完成度が高い作品だと思います。
最後に判明したユウとハルが命が繋がっている者ということや、何回かトラベルしたのは結局誰の力なのか、など全てを知ったうえでもう一度見ると新たな発見がある映画でもあると思います。
酷評が多いと聞いていたので映画館では見ずにNetflix で見ましたが、今は大音量と大きな画面で見たかった作品だなと、少し後悔しています。
この映画を見て不満に感じた人は、ゲームをプレイしたり考察しながらもう一度見ることをお勧めします。