劇場公開日 2021年10月15日

「役者目当で見たら必ず失敗するし、そも何故前後編にしなかった。」燃えよ剣 まにさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0役者目当で見たら必ず失敗するし、そも何故前後編にしなかった。

2021年11月4日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

司馬遼太郎作「燃えよ剣」は新選組のファン及び時代小説が好きな方というのはほとんどの方が通った道であるだろう。同作者作品「竜馬がゆく」より作品としてもまとまりがつきやすく、文庫本上下2巻と手を取りやすい。
ただ、それを読み込んだことがある事前提のある描写があまりにもこの映画には多すぎた。
所謂「役者目当て」の観客には初見殺し、という内容だ。

まずはこの映画の感想を箇条書きで並べるとしよう。

・役者配置については、沖田総司/お雪/山崎烝/井上源三郎の4人が個人的には適役だと感じた。
次点で伊東甲子太郎。

沖田総司についてはこの映画が制作が決まったという際、正直一番不安に思った人選配置(正直顔だけだと思っていた。)だったのだが、この映画に一番必要な役所を彼が持っていった。正直な感想でここだけ書くとこれから先十年は新選組をドラマ化した際は今回の役者さんでずっとやってくれ、と思ったほど司馬遼太郎作品の「沖田総司」にはまり役すぎた。新選組血風録を彼主役で映画化してくれ頼むから、歴史の話なんていらんかったんや。
人によって好き嫌いがあるのは承知する演技だが、山崎烝も個人的にはとてもよかった。物語のピエロ役となっていて重たい空気だけの映画にならず、彼の演技がなかったらもう少し池田屋事件のくだりは中だるみしていたように感じる。

井上源三郎の役者さんについてはよくこの方当てはめてくださった、と経歴を見て驚いてしまった。私自身は彼のお茶目な演技に癒されて、そして泣かされた。
伊東甲子太郎、なぜか肖像画に似ているとしか映画を見ている間思えなかった。演技とかではなく肖像画に似ていることでの評価となる。

・セットの豪華さ/カメラの撮り方に華やかさがある。
京都の寺院仏閣溢れる街並み、武州の緑、等色の使い方が綺麗だったと記憶している。

ここから先批評となる形だ。

・尺の問題か、音響技術の問題か、役者の技術か。とにかくセリフが聞きづらい。
・場転/シーン構成が下手。カットすべきところをカットできていなく、構成すべきところを構成していないと感じる。

→主演の役者の声が聞きづらいとは何事か、とのっけから豆鉄砲を食らった感覚でいた。同監督作品「関ヶ原」でも同じ手法をとっていたとレビューで拝見したので、監督の指示の元こうなっていると思われるのだが、正直悪手でしかない。おかげで冒頭1時間つまらなかった。
私は幼少期から原題作品を何度か読破した経験があり、幕末(佐幕派)についての知識も通常よりは多く知り得ていたからこの映画に「70点」
という数字をつけるが、幕末についての知識がなかったり原題をほとんど読んでいない場合のこの映画の数字は「15点」もないのではないか。

原題「燃えよ剣」自体が新聞の毎日連載だったと記憶している、原作自体も場転等は多いが原作の場合だと作者がいきなり本文に出てきて解説を始めるという手法だったはずだ。
だがこの映画には「解説」という行為などない。
余りにも唐突すぎて笑ってしまったのが、油小路
の変の後に駆けつけてくる御陵衛士が「兄上!」
と叫んだところだ。映画の今までどこに伊東甲子太郎の弟(三木三郎/新選組九番隊組長)が出てきたよwwwとシリアスなシーンなのに一人で笑ってしまった。どういうことなの。
新選組、佐幕派、倒幕派、長州、薩摩、官軍、賊軍、朝廷、江戸幕府、とにかくたくさんの人名が出てくる。全く説明もない上に数回しか出てこない名前が物語のキラーだったりするの、本当にやめた方がいいと思う。大河ドラマの文字解説見習ってくれ。

・お雪

→見終わった時、1番期待はずれだったのがエンディングだった。原作最後のお雪の描写をなぜ消した。彼女がここからどこに行ったのか、その描写は必要ではないのだろうか。
お雪は実在の人物ではない。だからこそ彼女がここからどうしたか、という説明を語り部でもいいから観客に伝えて欲しかった。
レビューでちらほら見受けられるが「池田屋事件が長い」、私も同意見だ。
新選組にとってはターニングポイント、だが土方歳三にとってはターニングポイントだったのだろうか。
新選組は治安維持を兼ねていた上その治安維持が命懸けであった、だからこそ彼らにこれが特段特別な任務であったという認識はなかったであろう。(天皇家の関わる過激攘夷派のクーデター事件阻止なので、本人達も重要な捕縛取り締まりという認識はあったろうがこれはどちらかというと"本命"にあたった近藤勇隊の方ではないかと思う。)

なぜそのような池田屋事件をあそこまで長く取上げたのか、彼の人生譚と考えたらもっと大事な所あったと思う。

土方歳三がどれだけ子供臭くて、どれだけひたむきで、どれだけ純粋か。鬼の副長と恐れられた土方歳三がその素直な性格を出せるのがお雪だと原作を読んだ時は思ったのだが、思ったシーンは尽くカットされていた。無念。
いやでもほら、何故お雪さんの云々を実写で見れたのは……嬉しかったと前向きに捉えよう……、もう少しお雪との絡みを見たかった。

総評

司馬遼太郎作品は地の文の上がり下がり(コメディ寄りの時もあればめちゃくちゃにシリアスに振られる時もある)が激しいのだが、コメディ寄りの所はうまくできていた映画だったと思う。
コメディ寄りだったところ?全体の一割ぐらいしかない気がするけど!
試衛館メンバー四人が男子高校生のようなはしゃぎ方をしているところや、土方が写真を撮るところ、知れば迷ひ〜の俳句のシーンなどの描写はとてもよかった。そこだけ見たい。まじで土方の俳句と写真撮影のところはめちゃくちゃ見直したい。

ただ今まで述べた通り、説明がないまま端折られすぎのまま時代が進むので映画の展開についていくには原作未踏破/幕末(佐幕派及び新選組一連の流れ)の歴史を知りえない人には「お金を払ってまで見る映画ではない」とは伝える。

ただ土方歳三とお雪の絡みが実写化されると知ってテンションの上がった方、馬鹿やってるバラガキと試衛館メンバーが見たい方、原作で記憶に残るシーンのある方は一見の価値があるかとは思う。個人的には和泉守兼定を研ぐシーンがずっと頭に残っていたから映像で見れて嬉しかった。

お雪がいい女だと思った人は原作を読め、もっとイチャイチャしていてとにかく二人が可愛くて仕方がないから。

あと思ったより斬り合いの映像としては完成度高く、あそこまで残酷な描写にしなくても良かったのではないかと違う方向への完成度に頭を抱えた。
あと雨の夜の鴨のシーンの近藤勇の謎ダンス、お気に入りです。あそこだけ延々リピートして疲れた時に見たい。最高。

結論 燃えよ剣を表現するには映画一本では尺不足だったので、この映画は沖田総司と井上源三郎を見てくれ。 以上。

まに